Q. お腹が少し腫れてきて「脱腸」と言われました。最近の治療法は?
◆消化器外科・一般外科 福外科病院 日本外科学会認定専門医
日本大腸肛門病学会認定専門医 福昭人院長
A. 脱腸でも、とくにそけい部が腫れてくるものを「そけいヘルニア」と言います。下腹部から足の付け根(そけい部)の筋肉組織が弱くなり、いきんだりして腹圧が加わるとその穴の部分からお腹を覆う腹膜が袋状に飛び出てくる病気です。急激に腫れがひどくなると臓器が壊死することがあります。治療は基本的に手術です。
手術は、腫れている部分を直接切開する「切開法」(図1)のほか、内視鏡を使った「腹腔鏡下手術」(図2)があります。腹腔鏡下手術は、お腹を3カ所5㎜ほど切開し、1カ所から腹腔鏡を入れて病変を確認、残りの2カ所から手術器具を入れて、お腹の中でヘルニアを治療します(図3)。この手術は、厚生労働省の07年度の資料によると、全国で約6200例も実施されており、修練を積んだ外科医が行います。切開法より傷や痛みが少なく、日帰り手術も可能です。治療法の選択は、かかりつけ医か外科専門医にご相談ください。
Q. 排便後、真っ赤な血が出ます。痔でしょうか、それとも他の病気?
◆外科 楽クリニック 藤田定則院長
A. 排便時に出血すると心配になりますが、市販の注入軟膏などを使って出血が止まると安心し、そのままにしてしまっている人は多いのではないでしょうか。
痔による出血は、初期の頃は便通を整えたり日常生活を変えることで症状は改善しますが、進行した痔や、それに伴う出血の治療は手術が必要になります。また、真っ赤な血が出る原因が痔であるとは限りません。痔の手術を受けた人に大腸がんなどの悪性疾患が見つかることがあるように、ほかの病気が隠れていることがあります。出血が時々でも長く続く場合は、外科などの医療機関を受診してください。
さらに、出血の有無にかかわらず、40歳以上の方は、年に一度の大腸がん検診をお勧めします。内視鏡検査が一番よいのですが、便に血が混じっていないか調べる便潜血検査は最低限、受けましょう。また、10歳代や20歳代でも問題が無いとは限りません。若いからといって安心は禁物です。
早期の大腸がんであれば、内視鏡手術で切除すれば完治します。医療機関での診察や大腸検査を受けるのは勇気が必要ですが、受診しなかったことを後悔しないため、ぜひ病院に足を運んでください。
Q. 23歳女性。内科で右わき腹痛を、婦人科の病気と診断されました。
A. 腹痛で内科を受診されたのですね。一般内科外来ではまず、胆のう炎や胆石症を疑います。ここで所見がなければ、次に、急性胆のう炎や急性膵炎、胃十二指腸潰瘍を疑います。ところが、ここでも所見が認められず、その一方で、月経が順調にもかかわらず不正出血や帯下の量が増えているなどの婦人科症状があれば、FHCSという病気を考えます。
FHCSとは、フィッツ・ヒュー・カーティス症候群といい、性行為感染を経路とするクラミジア感染症です。最近、若い女性の急性腹症の原因の一つとして注目されています。クラミジアによる骨盤内感染をきたし、さらに、腹腔内に感染が広がり、肝周囲炎を合併することで、右季肋部痛や心窩部痛を引き起こします。これは婦人科の疾患ですが、腹痛を訴えて一般内科外来を受診した30歳未満の女性の5.8%がFHCSであったとの報告があり、高頻度の病気だと認識されます。
FHCSの血液検査では、白血球数が正常値でありながら、炎症反応CRPが軽度上昇の傾向が見られます。診断は、血清クラミジアによるIg A抗体の測定が有用です。治療は、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗菌薬が有効です。
Q. 胃がんの原因と言われる「ピロリ菌」について教えてください。
A. ピロリ菌はロビン・ウォレン博士とバリー・マーシャル博士によって発見・研究され、その功績に対し2005年、ノーベル賞が授与されました。
ピロリ菌は、胃がんの原因のひとつです。また、日本のピロリ菌は、東南アジアやインドのピロリ菌に比べ、発がんしやすいことが解っています。年齢により感染率が大きく異なり、上下水道が完備されていなかった時代に生まれた50歳代から上の人では、感染率が80%前後に上ります。
日本ヘリコバクター学会では、すべての感染者の治療を推奨しています。検査は、内視鏡を使う方法と使わない方法、計6種類あり、内視鏡を使う方法では、胃の中の様子も観察できます。除菌は、抗菌薬と胃酸の分泌を抑える薬を1日2回、7日間服用します。胃潰瘍・十二指腸潰瘍の方のほか、内視鏡検査で慢性胃炎と診断された方も健康保険による除菌治療を受けられます。ピロリ菌を除菌すると、新しい胃がんが発生する確率を減らすことができる可能性があります。また、口臭がひどいとか、すぐに下痢をするなどの過敏性腸炎の症状がピロリ菌の除菌により治った患者さんも多くあります。気になる方は、一度相談されてみてはいかがでしょうか。
Q. 母娘そろって頭痛もちです。遺伝でしょうか?
40歳女性です。20歳ぐらいの頃から時々頭痛がします。痛くなると仕事や家事が滞りがちになり、吐き気や生あくびも出ますが、1〜2日横になっていると治ります。最近、娘が、私と同じように「頭痛がする」と言って、寝込むようになりました。頭痛は遺伝するのでしょうか?
◆脳神経外科 今村病院 今村 和弘院長
A. 頭痛でお悩みの女性はたくさんいらっしゃいます。20歳〜40歳代の日本人女性の8・4%が片頭痛に悩んでいるとのデータもあり、学校を休みがちになったり、仕事や子育て、友人との外出等が思うようにできないといったこともあるようです。
慢性的な頭痛は医療機関を受診
ご質問者様の症状は片頭痛のようですが、専門医の診察を受けないと、ハッキリしたことは申し上げにくいです。まずはお近くの脳神経外科や神経内科、頭痛外来を受診してください。
頭痛には、脳腫瘍(のうしゅよう)や脳出血など、生命にかかわる病気が原因の場合もあります。頭痛の診察・治療で最も重要な点は、「危険な頭痛でないかどうか確認すること」です。専門医の診察でこれらの病気が見つかることもあります。
病院で診察を受けずに、市販薬などで対処することはおすすめしません。薬の飲み過ぎが原因で頭痛を起こす「薬剤乱用性頭痛」になり、治療に苦労する人が多くいます。また、根本原因の治療になりません。
治療は原因改善と薬の処方など
片頭痛であるならば、原因は多岐にわたります。また、遺伝することも多いです。大半の片頭痛は、眠気や肩こり、吐き気等を伴います。治療は、頭痛の原因(寝不足や睡眠過多、飲酒、日常生活の乱れ)等を少し改善することを中心に、症状がひどいようなら薬などで対応します。
薬を処方した患者さんから「もらった薬を飲んだら頭痛は治まるけれども、体がだるいし生あくびが出る。胸も少しむかむかして気分が悪い。副作用ではないですか?」と質問を受けることがあります。これは多くの場合、副作用ではありません。最もつらい症状である頭痛が治まるため、その他の症状であるめまいや吐き気、気分不良などが目立つようになってきていると考えられます。これらに対しても治療は可能です。
「頭痛ぐらいで」とはよく耳にする言葉ですが、頭痛のために普段通りの生活を送れないのは、非常につらいことです。それがストレスとなり、さらに頭痛を起こすこともあります。「頭痛ぐらいで」と放っておかずに、専門医の診察を受け、適切な薬を処方してもらってください。
(ニュース和歌山2016年3月26日号掲載)