元教員らグループが書籍
紀伊半島の地域史と世界史との結びつきに注目した書籍『世界史とつながる日本史─紀伊半島からの視座』を、小中高校の教員や大学の研究者らでつくる「紀伊半島から考える世界史研究会」が4月に出版した。編著者を務めた和歌山大学の海津一朗教授と元高校教諭の稲生淳さんは「紀伊半島は太平洋に大きく突き出た日本最大の半島。日本史と世界史の接点に位置し、海から多様な人や文化を受け入れてきた紀州史の面白さを知って」と力を込める。
串本出身の稲生さんは県内の高校で世界史を教えた後、県教育センター学びの丘所長を務めた。20年以上、熊野と海外のかかわりを研究し、2015年に『熊野 海が紡ぐ近代史』を出版。これが海津教授の目にとまり、地域史を研究する教員らと2年前に研究会を立ち上げた。
2022年に始まる高校の新学習指導要領に、近現代の日本史と世界史を学ぶ必修科目「歴史総合」が新設される。「地理歴史」の教員免許を持っていれば高校では世界史、日本史、地理を指導できるが、ほとんどの教員がそれぞれの専門科目を教えているのが現状で、「片方だけ詳しい先生が多く、どう融合させるのか困っている」と稲生さん。同書はこうした教員の助けになると見込むほか、大学の授業でも活用する。
教員や学芸員、大学の研究者ら15人が現地取材や史料から執筆した。中国や朝鮮半島など大陸との交流が中心だった前近代から、海を通じて欧米などとの接点が増えた大航海時代以降にかけ、おおよそ時代順にまとめた。朝鮮半島との交流がうかがえる馬具が出土した和歌山市の大谷古墳、ペリー来航の62年前に串本の大島に寄港したアメリカの商船レディ・ワシントン号、串本町で製造され、ビキニ環礁で被ばくした第五福竜丸など26章にわたる。
海津教授は「紀伊半島を学ぶことによって世界史が分かる。教員以外の人にも読んでもらい、身近にある地域史を掘り起こすきっかけをつかんでほしい」と望んでいる。
四六判、384㌻。4104円。主要書店で販売。ミネルヴァ書房(075・581・5191)。
写真=「紀州史は日本史を超える」と稲生さん(左)と海津教授
(ニュース和歌山/2018年5月26日更新)