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 故郷で車夫としての再起をかける女性がいる。和歌山市の北原美希さん(33)は人力車の魅力にひかれ、奈良でデビュー直後、31歳の若さで脳こうそく、心臓疾患に襲われた。現在、再び人力車を引きたいと復活を目指し、一歩を踏み出した。北原さんは「人力車は生きている喜びを表現できるもの。人と人の壁を取り払い、すぐに仲良くなれます」と目を輝かせる。

  三重県伊勢市で人力車を引く友人から紹介され、2013年に人力車の道へ飛び込んだ。修業後、奈良県桜井市でまちおこしのNPOに所属し、観光客が多い大神神社周辺や婚礼会場などで、女性車夫として活躍した。

 デビューから3ヵ月、重さ80㌔の車体をバランスよく動かし、坂道の多い町を回るのに慣れ始めたころ、脳こうそくを起こした。精密検査の結果、心臓にも疾患が見つかり翌年手術を受けることに。復帰をあきらめ奈良での活動を終え、志半ばで故郷の和歌山へ戻った。

 人力車から離れた生活を送る中、今年2月に転機が訪れた。伊勢へ車夫仲間を訪ねた際、以前、北原さんが使っていた人力車が事故で半壊した姿を目の当たりにした。別の故障車を組み合わせて修理するとの話を聞き、「もう一度、生まれ変わった自分と〝相棒〟で走りたい」と一念発起。ゴールデンウィークに淡路島で開かれたイベントに出動し、1年3ヵ月ぶりの復帰を果たした。

 以前からの夢は、地元の和歌山で人力車を走らせることだ。ゆくゆくはイベントなどで再開できればと考え、5月中旬に人力車を所有する和歌山市の老人ホーム、ブリスぶらくりに頼み、練習で車にふれた。同施設の新家晴基さんは「景色の良い散歩を楽しんでもらいたく、普段は利用者を乗せていますが、まちなかで『乗ってみたい』と言われることが多い。北原さんの引く姿を見ると、やはり身のこなしが慣れているなと感じました」。

 北原さんは「手術前、最後に奈良の小学校で出前授業を行った後、『将来人力車を引きたい』と子どもたちに手紙をもらい、励まされました。人力車は乗るのもいいですが、引く楽しみもある。ぜひ和歌山の子どもたちにもふれてもらいたいですね」と願っている。

写真=地元での走行を目指す北原さん

(ニュース和歌山2015年6月13日号掲載)