漁師町・加太で創業200年を超える温泉旅館「ひいなの湯」。至福の湯浴みとともに、素材の持ち味を最大限に活かした繊細な料理の数々が、旅する人の心をつかみます。腕をふるうのは料理長の赤間博斗さん(52)。〝同じ味に幸せ感じる料理〟に思いを馳せながら、本物の和食を発信するために、海外にも積極的に足を運びます。
地産使用は当然
──料理人歴は?
「高校卒業後、大阪の調理専門学校で学び、大阪、京都、奈良などで修行を重ねました。30歳を過ぎたころ、香川の店で料理長を務め、2008年、ひいなの湯に料理長として迎えられました」
──こだわりは?
「食材は基本的に和歌山のものを使用することです。地場の産物はもちろん、野菜、果物、わさびや醤油などの調味料もそうです。といってもこだわりというより、自分にとっては当然のことだと思っています」
──お客様とのエピソードは?
「料理にご満足頂いているか、お客様の様子に常に気を配りながら厨房に立っています。常連さんの中にはご予約の際、私がいるかどうか確認してから日を決められる方もいらっしゃいます。とてもありがたく、うれしく感じています」
同じ味で幸せに
──料理人として転機はありましたか?
「14年にイタリアの食材の祭典『サローネ・デル・グスト』に、有志と一緒にブースを出したことが大きいです。和歌山産の醤油、酒、みりんなどを使った和食は大変な人気を集めました。メディアにも注目され、日本食のおいしさを伝えられたと感じています。でも一つ、気づいたことがあって…。よく『海外では日本食ブーム』といわれますが、現地で食べられているものは、本当の日本食とは違っていたんです。それを機に、海外に足を運び、日本食や日本の文化を伝えることがルーティンになりました。今では休みを利用して、1年のうちの3分の1は海外に行っています」
──どこの国でどんな活動を?
「イタリア、台湾、インドネシア、中東、他にもまだまだ。大学で講義をすることもあれば、日本料理店にレシピを提供することもあります。言葉が通じなくても、料理を介すれば気持ちが通じ合うんですね。一度訪れたところには、毎年行くようにしており、10年以上通っている地域もあります。料理についての考えやお互いの国の歴史など、さまざまな思いをぶつけ合いながら理解し、成長していく。海外での経験は自分が作る料理にも刺激を与えてくれています。一方で、各国から和食を学びたいと日本に来る料理人も多く、喜ばしく思っています」
──今後の夢は?
「『ひとつのテーブルで全員が同じものを食べる幸せ』。これに尽きます。同じ材料、同じ味、同じものを食べて『おいしい』と笑顔になる素晴らしいシーンに出逢いたい。国境や文化を越え、あらゆる人に受け入れてもらえる料理を作りたいと試行錯誤を繰り返し、ようやくゴールが見えてきました。同じものを食べることで世界中が幸せになればと願っています」
【加太淡嶋温泉 大阪屋 ひいなの湯】
和歌山市加太142(加太海岸通り)
☎073-459-1151
※予約・問い合わせ 9:00〜21:00
※あくら御膳プラン(食事+温泉入浴) 11:00〜14:00(LO)
(ニュース和歌山/2023年6月24日更新)