マヤに魅せられ、県立医大生だった1971年に初めて現地に足を踏み入れた美浜町の精神科医、宮西照夫さん(74)。9月の訪問で、ついに50回を数えました。今回も友人宅を拠点に、伝統的な治療法をさらに深めています。「心の病の治療にチョウセンアサガオ属の植物を使っていたことが新発見。今後、伝統的な癒し技術をまとめたい」とマヤへの思いは大きくなるばかりです。
神秘に魅せられ
──どうしてマヤへ?
「DHローレンスの小説でマヤの神秘的な儀式に興味を持ち、天文学などで高度な文明を誇りながら、なぜ滅亡したのかを知りたかったからです。場所は、主にグアテマラとメキシコの南東部。マヤ人と共に暮らし、宇宙観や宗教儀式、病気の治療法を学びました」
──何の治療ですか?
「精神科医として、当時文明病と考えられていた統合失調症など心の病が、古代の暮らしを続ける現代のマヤ人もなるのかを調査。現地の人もなると分かった上、うつ病やグアテマラ内戦被害者の心的外傷後ストレス障害の治療が高度で、西洋医学よりもむしろ進んでいることに驚きました」
──治療は特殊な薬で?
「マヤの伝統医は、シャーマンとして神に祈りを捧げ、診療所で具体的な治療をします。日本では幻覚キノコとして禁止されているキノコを抗うつ剤などに使用。30年以上も前に、現地調査で治療効果は分かりましたが、日本では相手にされませんでした。ただ近年、欧米やオーストラリアで、抗うつ剤のSSRIよりも副作用が少なく治療効果があると報告され、今後、西洋医学でも薬として認められると考えています」
研究の盲点痛感
──薬草で新たな発見がありました。
「現地では古くから、チョウセンアサガオを麻酔はもちろん、トラウマやうつ、不眠などの治療に使っていたことが分かったのです。キノコやヒルガオ科の植物などを使うと思い込んで、キノコを主に研究しており、チョウセンアサガオは盲点だったと痛感しました」
──遺跡発掘もされてきました。
「80年代から90年代にかけ、壁画や遺跡にも力を入れ、水中遺構や洞窟でミニ神殿を発見したことがあります。今回は遺跡調査を断念。その分、治療法の研究に力を入れ、チョウセンアサガオの新たな使用法発見につながったと思います」
──他に得たことは?
「40年ぶりに訪ねたマヤ人集落のシナカンタントは学校や病院などが近代的だったのに、隣接するチャムラは病院を使わずに閉鎖し、治療は伝統医で、昔ながらの暮らしでした。前はどちらも似た集落だったのに、変容の差に驚きました」
──今後は?
「チョウセンアサガオが、古代からどう使われたかをさらに調べようと考えています。症状だけとらえ治療するのでなく、今は人間をトータルに診る伝統医学が見直される時代で、西洋医学も伝統医学の良いところは使うべき。その意味でマヤの心の癒し技術を整理し、まとめたい。もちろん、まだまだ不明な点が多いマヤ文明滅亡の謎も解き明かしたいですね」
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宮西さんの新著『呪医とPTSDと幻覚キノコの医療人類学』は11月13日、遠見書房から出版。2530円。
(ニュース和歌山/2023年11月4日更新)