安定した乗り心地で地球に優しい2人乗りのソーラー四輪自転車を広めようと、和歌山大学生24人でつくるプロジェクトチームが活動している。2月に和歌山縦断に成功し、9月にはソーラーパネルを付けて初となる北海道縦断に挑む。観光学部2年の八木悠太さんは「高齢者や子連れの母親に使ってもらったり、観光地で活用したりと使い道は様々。目標のオーストラリア縦断を成功させ、多くの人に乗る楽しさを知ってもらいたい」と力を込める。
自転車は、東京にあるアイデアマラソン研究所の樋口健夫所長から寄贈された。発想法を研究する樋口さんは二輪自転車でバランスを崩して転倒する親子や高齢者を度々目にし、「エコで誰もが安心して乗れる自転車を若者の力で普及してほしい」と和大へ依頼した。
小学生のころから自転車レースに参加していた八木さん始め学生12人が昨年4月、学生の自主的な活動を支援する和大協働教育センター(クリエ)内にチームを発足。9割が観光学部生のため、日本中、世界中を四輪自転車で旅し、観光の分野で生かそうと考えた。
寄贈された四輪自転車は長距離を走れる安定感がなく、改造が必要だった。メンバーのほとんどが文系で、機械工学の知識がなく、工業高校の教員から溶接や旋盤の指導を受けた。日差しよけの屋根の設計や照明とハンドルの取り付け、ブレーキの調整と手を加え、半年かけて一般道で安全に走れる車体に仕上げた。
2月には、和歌山市栄谷の和大から新宮市まで250㌔を4日間かけて走破した。2人乗り四輪自転車を公道で走らせる前例のない挑戦に、道路交通法を調べ、県警に自転車を持って行き、交渉を重ねた。通過する15市町へも企画書を送り、通行許可をもらった。
時速約10㌔と速くないが、道中、屋根が取れたりチェーンが外れたりと故障もあり、修理しながら無事完走した。2年の芦野慈恵(よしえ)さんは「2人横並びでこぐので会話できるのが魅力。海沿いは潮風や波の音、磯の香りをダイレクトに感じた。四輪自転車は旅の楽しみを最大限に味わえる」と笑顔を見せる。
一方、課題も見えた。八木さんは「急な上り坂や長時間の運転は車体が重くて負担があった」。より楽に乗れるよう、屋根に太陽光発電のパネルを付け、電動で人力を補助するソーラー化を検討。今はパネルやモーターの研究に奮闘しており、9月にはソーラー付きで初となる北海道縦断に挑む。フェリーで輸送し、函館から日本最北端の宗谷岬まで600㌔を8日間で走る。
11月には高野山でも走らせる計画で、企画する1年の中山凌さんは「許可が得られれば観光客にも試乗してもらいたい。バスやタクシーに代わる乗り物として、和歌山の観光名物になれば」と目を輝かせる。
学生に夢を託した樋口さんは「和歌山縦断を果たし、北海道を目指すなど若い子たちの一生懸命さに感動する。和大生に渡してよかった」と語る。指導教員の1人、尾久土正己教授は「2人乗りで荷物も運べる四輪自転車は、車と違い二酸化炭素を出さない。電動アシスト機能が付けば、高齢者や山間部に住む人の移動に使える。人にも地球にも優しい新しい乗り物として、社会に役立っていくのでは」と期待する。
ソーラー四輪自転車には、〝太陽の船〟を意味する「ソルビアンカ」と名付けた。夢と希望を乗せ、来年はオーストラリア縦断に挑戦する。
写真この記事上から=2人で並んでこぐ四輪自転車は安定感がある、屋根にソーラーパネルを取り付ける
(ニュース和歌山2015年7月11日号掲載)