かつて海南市民の台所として多くの人が訪れた船尾市場(海南市船尾)。近年は客足が遠のき、店舗数は減少を続けている。現状を打開すべく、船尾商店街振興組合は8月、個人宅に商品を届ける宅配事業を開始する。市の補助を受け、買い物弱者支援と市場活性化につなげる取り組みで、濱端義人組合長は「車や自転車に乗れない高齢者が増え、買い物に困っていると聞く。商品を自宅へ届けるだけでなく、安否確認など地域の人同士のつながりを大切にしてゆきたい」と話している。
昭和の風情を留める船尾市場は肉、野菜、魚の生鮮3品をはじめとする生活必需品を扱う商店街で、かつて40店以上が軒を連ね、買い物客が押し寄せた。70年前から店を構える化粧品店「いおり」の伊織治記店主は「40年ほど前が一番にぎやかやった。通りを歩くと肩がぶつかるほど人が多かった」と懐かしむ。
しかし、1970年代後半から周辺にスーパーが建ち、客足が遠のいた。組合は各店がお買い得品を提供する「一店逸品市」を開き、店主が近隣各戸にチラシを配り、地域通貨を発行するなど努力してきたが、閉店が相次ぎ約10店にまで減少した。
一方で、深刻化しているのが地域の高齢化。海南市内でも、漆器の街として知られる黒江と、隣接する船尾の2地区は40・6%が65歳以上と市平均の33%を上回る。市が昨年、高齢者向けにとったアンケートでは、日常生活で手助けがほしいと思う場面で最も多かったのが「外出時の移動支援」(13・7%)で、介護認定を受けている人に限れば40・6%にのぼった。
昨年7月には黒江にあったスーパーが閉店。買い物弱者支援を求める声が高まり、以前から市場の各店主が自主的に行っていた宅配を組合で実施することにした。
8月に始める取り組みは、客が市場の各店に電話で注文し、配達用の商品を組合でまとめ、各家庭に届ける。「店に直接電話してもらい、日によって値段やオススメが変わる生鮮品の注文を受けます。市場は午後から人通りが減るので、その時間を活用して配達します」と濱端組合長。鮮魚を販売する川源の川口祐子さんは「なじみのお客さんに届けることがありましたが、組合でまとめて届ける方が合理的。市場の新鮮な食材を知ってもらうきっかけにもなれば」と期待する。
市は6月補正予算でこの取り組みの支援に210万円を計上し、輸送にかかる燃料費などを支援。補助は再来年度まで3年間継続し、産業振興課の川脇義正さんは「市場がなくなると、住民交流のコミュニティもなくなってしまう。まずは商店街の維持を目的に、宅配を通じ、実際に市場へ買いに行く人を増やしたい」と期待する。
市場近くで暮らす入川哲代(のりよ)さんは「年齢を重ねると足が悪くなって買い物に出かけられなくなる。重たい物もあるので、気心の知れた市場から配達してもらえるのはうれしい」と笑顔。黒江船尾連合自治会顧問の山野裕正さんは「地元で買い物をする気運が高まれば、市場が活性化する。市場が維持されれば買い物に困っている住民の福祉向上にもつながる」と歓迎する。
まずは近隣から宅配を始め、徐々に広げていく計画。濱端組合長は「スーパーの進出で個人店がつぶれ、その後スーパーが撤退し困っているという地域は他にもある。宅配事業が商店街活性化と買い物弱者支援のモデルになれば」と描いている。
写真=「生鮮3品以外も届けます」と店主たち
(ニュース和歌山2015年7月18日号掲載)