和歌山市四箇郷地区の住民が、地区内にあるJRの車両センターへ新駅「新在家駅」の設置を求めて運動を展開している。これまで1万2000筆以上の署名を集め、9月にはJR西日本和歌山支社、和歌山県、和歌山市に要望書を提出する。新在家駅を実現する市民の会の得津修司代表は「地域の高齢化が進む中で公共交通のニーズが高まっている。駅ができれば利便性向上と地域活性化につながる」と話している。
7800世帯、1万7000人が暮らす四箇郷地区。東西に国道24号が貫き、道沿いに商業施設、その周辺には住宅地と田畑が広がる。同地区にとって大きな悩みは公共交通のアクセスで、和歌山バス那賀が南海和歌山市駅と岩出、橋本方面を結ぶ路線バスを国道で走らせているが、1〜2時間に1本と少ない。
また、JR和歌山駅方面への路線がないことから、自治会は2012年、和歌山バス那賀に要望書を提出した。交渉が進まない中、目をつけたのがJR和歌山線が通る車両センター。センターは列車の整備や洗浄、車庫として利用されており、市民の会の井本源士さんは「40年ほど前、遠足の際は小学生が整備員用のホームから乗りました。バスの増便や路線を新設するのが難しいならば、電車がここで停まってくれれば良い。整備費もあまりかからないはず」と主張する。
会は今年3月、自治会役員ら有志でつくり、JR和歌山線沿線の県立和歌山高校やスーパーでの街頭PR、各戸訪問で署名を集めてきた。地元で40年近く習字とそろばんの教室を開く和正(わしょう)恵さんは「教室を開いたころ、新興住宅地で子育て世代が多かった。その人たちが一気に高齢化を迎え、交通に不便を感じている。和歌山駅や橋本へ行きやすくなれば」と期待する。
JR社内からも新駅を望む声が上がる。社内にある4労組の1つ、JR西日本労働組合和歌山地方本部の田中明夫執行委員長は「運転士は列車を車庫に入れた後、紀伊中ノ島駅まで15分ほど歩き、電車で和歌山駅へ戻っている。困っている地域の現状と、運転士の負担軽減との観点から活動を応援したい」。
JR西日本和歌山支社は「要望書が出ていないのでまだ検討できない。和歌山線は赤字路線で利用者は減少傾向が続いている。新駅で需要が見込めるか、設備面でも設置可能かなども含め、考えないといけない」と話す。
地元住民が駅開設への気運を高める中、バス路線の可能性が浮上してきた。和歌山市は12年に要望を受けた和歌山バス那賀と協議を続け、今年7月には地元住民にバスの利用頻度や行き先を尋ねるアンケートを実施。現在集計中で、和歌山バス那賀の森川圭治支配人は「採算性が見込めれば和歌山駅への路線開設もあり得る。集計結果をみて判断したい」と前向きだ。
市は18年度の策定を目指している「地域公共交通網形成計画」に向け、市内全域の公共交通のあり方についてのアンケートを行っており、市交通政策課は「目先の課題解決と20、30年後を見据えた展望を両立させる方法を模索していきたい」。
公共交通の利用促進に取り組む市民グループ、わかやま小町の志場久起事務局長は「バスの減便などで交通空白地帯が広がり、こういった運動が今後増えていくのでは。事業継続には住民が率先して利用し、事業者にその路線の必要性をアピールすることが大切だ」と強調している。
写真=スーパーで署名を呼びかけるメンバー(右2人)
(ニュース和歌山2015年8月29日号掲載)