紀美野町西野の山地で1711年に開かれた農地を代々受け継ぐ紀州マルイチ農園。シニア野菜ソムリエの資格を持つ北裕子さん(55)は5年前に帰郷後、農園の栗でジャムを作りヒットさせ、大正時代の米蔵を改装したカフェ「くらとくり」を立ち上げるなど精力的に活動する。農業を軸に紀美野町の活性化を目指す北さんに、旬を迎えた栗の味と故郷への思いを尋ねた。(文中敬称略)
コクある自然の味
——大きな栗の木がたくさん植えられています。
北 標高350㍍の山の斜面で育てています。南高梅や富有柿も栽培しています。栗を本格的に始めたのは父の代から。近くにある釜滝薬師金剛寺で江戸時代、「良質の栗、梅を食した」との記録があり、父が土地の歴史に注目して山を切り開き、栗畑を復活させました。
——どんな種類の栗を。
北 定番の筑波や粒が大きい銀寄(ぎんよせ)、黄色い果肉で香りが良い有磨など13種類、約400本を植えています。栄養分が高い赤土の山で水はけが良く、コクのある栗が採れます。殺虫処理をしないので、自然な栗を味わっていただけます。
ジャムがヒット
——農業を始めたのは。
北 5年前に帰郷してからです。20代半ばで和歌山を出て、50歳まで大阪や神戸で会社勤めをしていました。これからの農業は生産だけでは立ち行かないと思い、帰郷に合わせてシニア野菜ソムリエの資格を取得しました。家業を継いだ園主の弟をサポートしながら、栽培品目の見直しや販路開拓、資格を生かして栗のレシピを作るなど色んなことに挑戦しています。加工所もつくり、栗ジャムと渋皮煮、製菓用の栗の粒を製造しています。特に栗ジャムは人気で2年前にテレビ番組で紹介され、1年で5000個近く売れました。
——国産の栗を使ったジャムは珍しいですね。
北 「栗本来の味がする」と喜ばれます。栗を湯がいて一つひとつ実をくり抜き、細かくして煮詰め、残った渋皮を取り除く。手作業で気が遠くなるほど根気がいります。隠し味はラム酒とバニラビーンズです。相性の良い生クリームと混ぜると、パンケーキやコーヒーに合うリッチなマロンクリームができます。
町に残る資源生かす
——オーナーをしている「くらとくり」はどんな場所ですか。
北 加工所の隣にある築90年の米蔵を改装したカフェです。この地域の旧志賀野農業協同組合の米の出荷所でした。瓦や壁がはがれ落ち、5年前に取り壊す話が上がっていたのを土地ごと買い取り、2年かけて改装しました。そこを3店で共有し、店を出しています。大阪からIターンの又野寛さんが「もみのき食堂」として菜食ランチを、Uターンしてきた神谷健さんと焙煎士の仁子さん夫妻が「ザ・スタンド」という自家焙煎コーヒーの店。それに、紀州マルイチ農園が作物や加工品を販売しています。大阪や神戸など県外のお客様も多く、毎週末100人以上来てくれます。秋は焼き栗も店頭で販売します。
——今後は。
北 農業を発展させながら、地域のために生きていきたいです。長い間都会で生活していた分、手つかずの自然が残る故郷への思いが強いのかもしれません。加工所とカフェがある場所は昔、志賀野の村役場があり、地域の中心地でした。農業と食の大切さを発信する拠点にして、もう一度ここを人の声がする地域にしていきたいです。
【紀州マルイチ農園】
紀美野町西野686-3。☎073・489・5601
【くらとくり】
紀美野町西野685-4。土日のみ営業。午前10時半〜午後5時。☎ 073・499・5580
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(ニュース和歌山2015年9月9日号掲載)