戦地で命を落とした兵士たちの家族でつくる和歌山県遺族連合会が8月、戦後の暮らしをまとめた書籍『あゝ大東亜戦争 遺児たちの歩んだ道』を出版しました。一家の大黒柱を失った子どもたちが、母親と共に苦闘しながら乗り越えてきた経験を様々な角度から描写した記録文集です。
県出身の戦死者は約3万人に上り、その妻や両親、子どもたちはかけがえのない家族を失いました。会は遺族の助け合いや戦死者顕彰のため、1947年に発足。一時2万人を超えた会員は今、兵士の妻が90代、子が70代と高齢化が進み、1万3000人にまで減少しています。
今回、県内各地の遺児ら38人が執筆しました。東和歌山駅(現在のJR和歌山駅)前の闇市で天ぷらを販売した母親が検挙された子ども、「戦災孤児であふれ、笑いを忘れた人々の顔は青ざめて言葉から優しさが消えた町」で青春時代を過ごした男性、寝ているとコツコツと靴音がして、ガラス越しに軍服姿の夫が立っている夢を見た女性…。
夫や父親、兄弟を失った喪失感の中で、悲しみに浸る間もなく、日々を乗り越えてきた遺族の心情は計り知れません。読み進めると、当時を生きた人の目線で切り取られた戦後がただただ心に浮かび、戦争が残した悲惨さが伝わってきます。戦争というと、戦地での経験や大空襲などを想像しがちでしたが、戦後の復興を担った人々の苦労も、戦争が残した傷跡に違いないと改めて実感しました。
同会は今後、自分たちの経験を次世代に伝えるため、同書を語り部活動に活用する予定です。副会長の服部康伸さんは「戦争の災禍が再び繰り返されることのないよう努力する一助になれば」と願います。
戦後70年を迎えた今年、本紙は7、8月に戦争経験者の体験談をまとめた特集を組みました。すると、読者から「自分の経験も聞いてほしい」との声が多く寄せられ、「戦争を伝えられるのは今しかない」との危機感を強く感じました。
国の安全保障を左右する法案が議論される中で、戦争経験者たちの声は国会に届いているでしょうか。国民の8割が戦争を知らない世代となった今、当時を知る人の証言や同書に記された戦後こそが、国民目線の戦争理解であり、議論において欠かせない視点だと思うのです。
宇治書店、同会事務局で販売中。1300円。同会(073・424・5813)。(林)
(ニュース和歌山2015年9月12日号掲載)