江戸時代後期から明治初期にかけて活躍した画家、岡本緑邨(ろくそん、1811~81)が和歌浦周辺の名所を描いた「明光浦十景図」。持ち主の県水墨画協会、寺井冨士事務局長が11月26日、和歌山市湊本町の市立博物館に寄贈した。寺井事務局長は「展示や研究に役立ててほしい。和歌山ですばらしい画家が輩出されたことを知ってもらい、絵を描く人の励みになれば」と期待している。
緑邨は色彩豊かで緻密(ちみつ)な花鳥画を得意とし、紀州画壇を担った。十景図は31×33㌢の10点で、画家の桑山玉洲(1746~99)の作品「明光浦十覧冊」の構図を踏襲し、独自の画風に仕上げている。
約150年前に制作したとみられ、それぞれ「玉津春暁」「財賀漁火(さいかいさりび)」「名艸晩潮(なぐさばんちょう)」と題し、水軒浜や紀三井寺、塩竃神社周辺、藤白峠の様子が淡い色使いで表現されている。
同館は緑邨の作品を2点所蔵しているが、実際の風景を描いた真景図はなかった。近藤壮学芸員は「塩田ができる前の江戸時代後期の和歌浦が描かれた作品は珍しく、変遷が分かる貴重なもの。墨の濃淡やにじませ方など技術的にも優れている」と評価する。作品は2017年以降に展示する予定。
写真=寺井さん(右)が尾花正啓市長に手渡した
(ニュース和歌山2015年12月9日号掲載)