2015121201_sagi

 一向になくならないオレオレ詐欺や架空請求詐欺などの特殊詐欺。被害にあいやすい高齢者に防犯意識を高めてもらうため、地域に出向いて演劇を披露する〝俳優〟たちがいる。50歳以上の団員でつくるシニア劇団発起塾はミュージカル、岩出警察署員によるプロジェクトチームは寸劇で、臨場感たっぷりに注意を喚起。実際に見たお年寄りからは「自分もだまされる可能性があると思うきっかけになった」と好評だ。

 「警察ですが、息子さんが交通事故を起こされまして…」。集まった中高年を前に熱演するのはいずれも50歳以上。詐欺のターゲットになりやすい高齢者と同年代の発起塾団員たちが、磨いた演技力で観客を引き込む。

 発起塾は大阪や名古屋など6ヵ所で教室を開校。ホールでの定期公演に加え、2008年からは地域の老人ホームや病院ほかで〝出前ミュージカル〟を行う。詐欺撲滅ミュージカルは「振り込め詐欺などは虎の子の大金をねらう中高年の敵。少しでも被害を減らしたい」(秋山シュン太郎代表)と昨年5月に始め、計27ヵ所に出向き実施。開催地域の警察署も協力し、現職の警官が犯人役で出演するほか、公演後に被害の具体例を紹介する。

 和歌山県内では今年9月、粉河ロータリークラブの依頼を受けて公演した。発起塾和歌山校団員で、警官を名乗ってだます魔女役を務めた酒井律さんは「威圧的な感じを出したいと意識しました。詐欺についてはニュースで知っていますが、警官や弁護士だと言って実際に電話でたたみかけられると、動揺するかもしれませんね」。粉河ロータリークラブの堀木耕一さんは「詐欺に関するニュースが流れても、今までは聞き流していましたが、ミュージカルを見てからは意識するようになりました。同じシニア世代の方が演技してくれるので詐欺を身近に感じたし、元気ももらえました」。

 同じく、演劇による啓発に着目したのが岩出署だ。管内で被害に遭った人に聞くと、啓発用チラシは見たことがあり、被害についてのニュースも見聞きしていたことから、さらに一歩踏み込んだ啓発活動をと、寸劇を出前で行うチーム「とめるのは、いまでしょ(岩出署)!」を11月に立ち上げた。

 これまで2ヵ所で披露。メンバーは交番や駐在所に勤務する警官ら約50人で、演技はみな初めてだが、「犯人役が憎たらしかった」との感想も聞かれるほどの熱演を見せる。同署地域課の伊藤幸司課長は「皆さん、うなずきながら見てくれ、引き込まれているよう。『近所の人にも注意を呼びかけます』と言ってくれる人もいます。目標は1人でも被害を減らすこと」と力を込める。

 県警生活安全企画課は「高齢の方に説明する際は、分かりやすいことが大事。そういう意味でも演劇という切り口は理解しやすく、印象に残りやすい良い方法」と取り組みを歓迎。発起塾の秋山代表は「啓発チラシを読んでいる人は防犯意識の高い人。そうでない人にも芝居を通して楽しみながら、詐欺被害にリアリティをもってもらえれば」と話している。
 発起塾への公演依頼はHPで詳細参照。
写真=コミカルなミュージカルで啓発する発起塾

 特殊詐欺被害

 県警生活安全企画課によると、今年1月~11月に県内であった特殊詐欺被害は、把握しているだけで50件、被害総額は約3億2300万円。内訳は架空請求詐欺が28件・約2億5500万円と被害金額全体の8割近くを占め、これにオレオレ詐欺の14件・約4100万円が続いている。

 被害者の66%は60歳以上だが、60歳未満も昨年の20%から34%と増加。「有料サイトの未払いがある。今日中に連絡がなければ法的手段を取る」などと持ちかける事例が多い。

 不審な電話やメールがあれば、最寄りの警察署、または警察相談専用電話(♯9110)へ。
(ニュース和歌山2015年12月12日号掲載)