串本とトルコで撮影された映画『海難1890』が5日、公開されました。和歌山では初日、今年封切りされた作品で最も多い6247人を動員。地元の関心の高まりが感じられます。
作品は史実に基づいています。串本沖で125年前、トルコ軍艦エルトゥールル号が沈没し、嵐の海に投げ出された乗組員を串本の村人たちが命がけで助けました。そのことを忘れずにいたトルコ政府が1985年のイラン・イラク戦争の際、邦人救出のために救援機を飛ばしてくれました。
約10年前、この話を多くの人に伝えたいと串本町の田嶋勝正町長が大学の同級生だった田中光敏監督に相談したのがきっかけでした。県や串本町、市民団体と地元が一丸となって映画化の運動を続けた結果、日本の外務省やトルコ政府の協力が得られ、日本とトルコの初の合作映画として実を結びました。
私も作品を見ました。まず驚いたのが、日本映画ではなかなか見られなかったスケールの大きさとダイナミックな映像。嵐の中を進む船や、船内で奮闘する船員たちの姿と友情を描いたシーンは印象的です。また、それほど豊かではなかった村の暮らしの中で、貴重な食料や衣類を持ち寄って献身的にトルコ人を介抱する村人の姿に心打たれました。「目の前で困っている人を助けるのに、民族や宗教は関係ない」とのメッセージが画面から伝わってきます。
11月にパリで起きた同時多発テロ以降、各国のISへの包囲網が強化されています。欧州では極右派の政党が選挙で勝利し、ますます〝反IS〟が加速します。国家対国家の戦争から、国家対テロという見えない相手を敵にした戦争に、終わりはあるのでしょうか。
海外の戦争に漠然と不安を感じ、自分に何ができるのか、なかなか分かりません。そんな中、公開された『海難1890』。本州最南端の小さな村で起きた出来事が国を巻き込むほど注目されるようになったことは、私たち市民にも何かできることがあるはずだと勇気をくれます。
県は、1月中旬から県内の全高校生を対象に鑑賞会を開いてゆきます。緊張感が増す国際情勢の中、次の歴史をつむいでゆく世代がこの作品にふれる意義は大きいでしょう。草の根でできる国際交流の積み重ねが、平和な世界を築いてゆくのだと信じ、『海難1890』の順調な〝航海〟を願っています。 (林)
(ニュース和歌山2015年12月12日号掲載)