串本で撮影された全国公開中の映画『海難1890』に続けと、和歌山を舞台にした映画づくりが続々と行われている。オール和歌山市ロケの『ちょき』が2015年末、海南市や紀美野町では『見栄を張る(仮題)』が年末年始に撮影された。1月末には時代劇『真田十勇士』の一部ロケが和歌山市で始まる。いずれも今年完成予定の長編で、国内外のスクリーンに地元の慣れ親しんだ風景が映し出される。
『ちょき』は2015年12月17日から10日間、和歌山市島崎町のじゃんじゃん横丁を主に、和歌浦天満宮、マリーナシティなどで撮影された。海辺の町を舞台に、妻を亡くした理容師の男性と盲目の少女とのふれあいを描いたヒューマンストーリーで、新人女優の増田璃子と俳優の吉沢悠が主演。釜山国際映画祭短編部門で日本人初の特別賞を受賞した金井純一監督がメガホンをとった。
エンターテインメントで地元の盛り上げを図るきのくに地域活性化協議会の志賀弘明代表理事が「海外の映画祭に出品できる作品を和歌山で」と同市出身の映画プロデューサー、前田和紀さんと考案。市の協力を得て実現した。撮影中は和歌山弁の方言指導やロケ地として住居の提供、エキストラで市民が応援した。
磯の浦の夕陽、レトロな雰囲気漂うじゃんじゃん横丁など同市をありのままに映した作品。金井監督は「和歌山の美しい景色で、見る人を映画に引き込ませる世界観が表現できた」と自信を見せる。今秋、和歌山市を皮切りに全国公開し、海外の映画祭へ出品する計画だ。志賀さんは「国際的な場で和歌山市をPRできる。中国ではロケ地巡りがはやっている。映画を見て、来る人が増えれば」と期待。今後は和歌山を舞台に3部作の製作を構想している。
一方、『見栄を張る』は新人監督の登竜門と言われるシネアスト・オーガニゼーション大阪の助成作品で、25歳の藤村明世さんが監督を務める。2015年1月、黒江を舞台にした短編映画『ISHICHI』で海南市民の協力的な受け入れ体制が映画界で評価され、再びロケ地に選ばれた。
故郷の和歌山に戻った女性が、葬式で他人のために涙を流す泣き屋の仕事を通じ、自身の生き方を見つめる物語。紀美野町の古民家、JR紀勢線の車内や下津駅、黒江、有田川町の葬儀場などで年末年始に撮られた。
海南市、紀美野町、有田市、有田川町の住民が、ロケ地探しやエキストラの手配、製作スタッフの宿泊先提供など全面的に協力。中心となった海南市の志場泰造さんは「ひとつの作品をみんなで作り上げることでまちの団結力が高まる。まちづくりに意欲のある人との縁ができる」と語る。
『見栄を張る』は3月の大阪アジアン映画祭にエントリー後、劇場公開を目指す。藤村監督は「和歌山で多くの人に手伝ってもらい、色んな人の思いを受けている。人生をかけていい作品にして世界中の人に見てほしい」と意気込んでいる。
和歌山市は今年度から市内で長期撮影する映画やドラマの製作に補助金を出し始めた。宿泊費や施設使用料の半額を最大500万円補助する制度で『ちょき』と『真田十勇士』はこれを活用。『真田十勇士』はスタッフ約200人が2週間、市内で滞在するため、宿泊費だけで1千万円になると見込む。市観光課の平田二郎さんは「映画は単発のCMやテレビ番組のロケより長く人の心に残り、国内外へ発信できる。撮影時の経済効果だけでなく、観光客誘致へつなげたい」と話している。
写真上=『ちょき』のロケ地になったじゃんじゃん横丁 同下=紀美野町の古民家で撮影した『見栄を張る』
(ニュース和歌山2016年1月16日号掲載)