ある島に、一人の子どもが取りのこされていました。その子は海の中の海そうだけを食べ、助けを求めて、ずっとその島で耐え続けてきたのです。
一年ほどたったある日、船がやってきました。ですが、その子はワカメなどの海そうしか食べてこなかったので、全身の力が無くなっていました。でも、その子 はせっかくのチャンスを逃すまいと思って、服を力の限りふりました。船はその子の動作に気付いて、島に来ました。ですが、その船に乗っている人は、人では なく、かんぺきな羊だったのです! ! その子はとてもびっくりぎょうてんして、尻もちをついてしまいました。
一方、羊たちの方もびっくりぎょうてん。あわてて船を引きかえそうとしました。こまったその子は、いそいで地面に生えているいろんな草を体じゅうにつけて、四本足で立ち、「メ エェ~」と言いました。船に乗っている羊は、「なんだか緑の羊なんて変な色の羊だな…」と思いながら、その子を船に乗せてあげました。
羊は、その子に、「つかれているでしょう。さぁ、これを召し上がれ」と言って、大きな皿にテンコモリになっている大量の葉をあげました。人間にとっては葉な んか食べても食よくがあまりわきませんが、羊たちにとってはごちそうなのです。その子に、乗組員の羊たちは、いろいろな質問をしましたが、その子は葉を食べることだけに集中して、何も答えることができませんでした。
その子が羊たちの船に乗せてもらってから、一ヵ月半くらいがたちました。も うその子は、四本足で立って生活することにも、葉だけを食べつづけることにも、だいぶなれてきました。そんなある日、羊の船は日本の和歌山港を通りました。その子の家は、和歌山港に近かったので、「ここの港で下ろしてください!」と言いました。やっと家に帰れると思って、船の上から海の水を見てみました。そして、すきとおった水の表面にうつし出された顔は、なんと羊だったのです! ! 羊のような生活をしてきたその子は、なんと、顔が羊の顔になってしまったのでした!
でも、その子は、お父さんとお母さんのことだから、きっと自分の子だと声でわかって、家の中に入らせてくれて、ごはんも作ってくれるだろうと思いました。そして、その子は羊たちに礼を言って、羊の船をあとにしました。
その子は、道にまよいながらも、とうとう、自分の親がいる自分の家にとうちゃくしたのです! さあ、両親の元へ帰れるぞと思ったその子は、うれしさと喜びのあまり、自分の顔が羊の顔になっていることを、すっかりわすれていました。
その子は、ドアを開けて、「ただいま! !」と言いました。けれども、その言葉の返事は、「おかえり、おそかったね」ではなく、「あんた、だれ?」だったのです…。そう言われてショックをうけて、家を出た十秒後、ショックでたおれてしまいました。
アラームが鳴って、その子は目がさめました。今のは夢だったようです。でも、どこかで羊たちが船に乗って、どこかの海を旅しているかもしれませんよ。
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漫画家、いわみせいじ審査員… とにかく発想がユニーク。どういう展開で話が進んでいくのか分からず、「それで、それで…どうなんの?」と引っ張っていかれる感じ。現実を離れた「漫画的 な作風」を楽しませてもらいました。審査も8年目、応募作に県下の地名が出てきたのはおそらく初めて! ! それもこの賞のポイントになりました。
(ニュース和歌山2015年1月24日号掲載)