ぼくの名前はくり。小さなさるのぬいぐるみさ。でもぼくは最初からぬいぐるみだったわけじゃない。
ぼくは、日本ざる星で宇宙飛行士になるさるとして生まれる。ぐんぐん成長するぼく。そして、ぼくは宇宙飛行士の父と宇宙旅行へ行くことになった。夢の宇宙旅行だったので、ぼくはとてもわくわくしていた。
そして、父の話も聞かないで宇宙船の窓から顔を外へ出してしまった。そのとたん、ふっと足が浮いてぼくは真っ逆さまに宇宙へ投げ出された。楽しいはずの旅行で、ぼくは宇宙船から落ちてしまったのだ。どんなに手足を動かしても、身動き一つとれなかった。
少したって気がつくと、ぼくは神様のもとへ行っていた。そこで神様は、ぼくにこう言う。「ここは人間の世界。おまえは約束も守れず命を落とした。もう一度生きたければ、この世界でぬいぐるみとして、生活しなさい。しかし、絶対に、人間に動いているすがたを見られてはいけない。その約束を守れるなら、地上へ出してやろう。ただし、約束をやぶれば、この世に存在したことを全て消す。さぁ、地上へお行き」。こうしてぼくは、人間の世界でぬいぐるみとして生きることになった。
次にぼくが気づくと小さな男の子に抱っこされていた。その子の名前はりく。それがりくとの出会い。チュウチュウしたり、ガブガガブかんだりしながらいつもいっしょにいる。もちろん、ねる時だっていっしょだ。ぼくがいれば、小さなりくも一人で眠ることができた。一人ぼっちだったぼくは新しい家族ができて、とてもうれしかった。今度はなにがあっても絶対に、はなれない。ぼくはそう心にちかった。神様との約束も絶対守らないと。ぼくとりくは、かけがえのない存在となった。
りくがようち園に通い始めたころ、ぼくとはなれるのがいやで、リュックの中にいつも入れてようち園へ行った。ようち園でもぼくと思いっきり遊んでくれる。ぼくはうれしくてうれしくてたまらない。こんな日がずっと続く事を願っていた。ある日、いつもと同じようにようち園へ行く。もちろんぼくはリュックの中。今日はどんな楽しいことがあるのか。ぼくはリュックの中でずっと考えていた。「どんなふうに遊んでもらえるのかな」
この日はとてもあたたかく、太陽の日ざしも気持ちよかった。りくは、外で木に登っている。夢中でどんどん登っていく。大丈夫なのだろうか。ぼくの予想は当たった。りくはてっぺんまで来た時、手をすべらせて落ちそうになった。ぼくは神様との約束も忘れ、無我夢中でリュックから飛び出した。なんとかりくを助けたが、かわりに自分が木から落ちてしまった。「さるも木から落ちる」。くりはその日以降、どこへ行ったのか分からなくなった。
それから20年後、りくは宇宙飛行士になった。りくにはずっと思い続ける夢がある。「日本ざる星へいつか必ず行くんだ。くりに会いに」
あれ、どうしてりくがぼくの事を覚えてるかって? それはね、ぼくがりくを助けるために動いた時、神様がぼくに言ったんだ。「おまえはまたもや約束を破った。約束通り全てを消す、と言いたい所だが、おまえは自分をぎせいにしてでも人を助けようとした。それはおまえにとって大きな成長だ。だから記おくだけは消さないであげよう」って。
ぼくは生き続ける。りくの心の中で、いつまでも、いつまでも。「見守ってるよ。大好き、りく」
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漫画家のいわみせいじ審査員……漫画や文章は我々をどこかに連れて行ってくれます。このお話のように宇宙にだって簡単に行けてしまうのです。「冒険活劇」のようなこの作品が、漫画家である私の心に強く残りました。楽しい作品ができたら、またぜひ送ってくださいネ。
(ニュース和歌山2016年1月30日号掲載)