寺の仏様へのお供えをおさがりとして一人親家庭に贈る活動「おてらおやつクラブ」が全国に広がっている。子どもの貧困が社会問題になる中、1月現在、宗派を問わず、全国42都道府県の255寺が活動に参加する。県内でも和歌山市の善称寺と正教寺が協力。善称寺の釋真宣(しゃく・しんせん)住職は「お寺らしい支援方法。どのお寺もお供え物を余らせたりしているはずですので、さらに賛同する寺院が増えれば」と願う。
おてらおやつクラブは、寺社の運営をサポートする一般社団法人「お寺の未来」が2013年10月に始めた。母子家庭を中心に一人親家庭を支援する全国の団体と協力し、経済的な問題を抱える家庭へ、寺に供えられた菓子や果物などをおすそ分けする。
県内では昨年4月、同市本町の善称寺が最初に始めた。釋住職は「うちは2人世帯。お供えはおさがりとしてありがたくいただいていますが、食べきれずダメにしてしまうこともあります」。そんな中で活動を知り、「これなら微力ながら協力できる」と参加を決めた。
昨年末までは、母親と娘3人で暮らす大阪の家庭に贈っていた。3姉妹で分けやすいよう菓子は3つに小分けし、かわいいテープで袋を留める心配り。洗剤やタオルなど日用品も箱に詰め、手紙を添えて発送すると、礼状に加え、菓子を手にニコニコした女の子の絵などが送られてくるようになった。年明けに届いた手紙には〝昨年はたくさんの勇気をありがとうございました〟との言葉。坊守(ぼうもり=寺の番人)の宇治田沙季さんは「受け取った家庭が一瞬でも明るく、温かくなる。そんな機会になれば」とほほえむ。
同市冬野の正教寺は昨年9月から参加。「食べきれないお菓子・缶詰などを、お供えお願い致します」などと書いたチラシを手作りし、檀家(だんか)や藤浪明覚副住職が運営にかかわるセミナーの受講者らに配布し、協力を呼びかけてきた。
寺からのお供えも合わせ、菓子や食材、ジュースなど、昨年12月に同市で活動する「子どもの生活支援ネットワーク こ・はうす」へ発送した。クリスマス前だったことから、長靴型の容器に入った菓子を、1月末の2回目は節分用の豆も同封した。活動に協力する檀家の女性は「何でも豊富にある時代、ニュースなどで貧困問題は知っていましたが、身近な問題なんだと改めて気づきました」。
今後も毎月20日ごろに発送する予定。藤浪副住職は「おすそ分けは真心であり、協力する人の心も豊かになります。こうした場を皆さんと持たせていただいて感謝しています」と話す。
現在、善称寺も支援するこ・はうすは、経済的に苦しい家庭の子どもたちに週1回、夕食を提供する。事務局の馬場潔子さんは「お寺にお供えされた方の顔も名前も分かりませんが、そんな方から届く温かい気持ちのつながり。小学生にはまだピンとこないかもしれないですが、大人になれば分かると思います」と目を細める。
活動の詳細は「おてらおやつクラブ」HP。善称寺(073・422・0473)、正教寺(同479・1871)。
写真=菓子や果物に調味料、タオルなどを箱に詰める善称寺の釋住職
(ニュース和歌山2016年2月6日号掲載)