第2、4土曜号で好評連載中の「マエオカテツヤの妖怪大図鑑」。2月24日号掲載の特別編では、和歌山城とその周辺に伝わる妖怪3つを紹介しました。
その1つが、夜になると木から木へと飛び移る野衾(のぶすま)。道行く人の目や口を覆い、血を吸うとか。その正体は、人が持つ灯りめがけて飛んだムササビのようで、マエオカさんは「突然、野衾に張り付かれて怖ーい思いをした人の体験談が生んだ妖怪」と説明しています。
この解説文、実は初稿に「和歌山城は今も野衾が棲(す)んでいるので、夏の夜は夕涼みがてら、野衾の滑空を見に行ってほしい」との一文がありました。48歳のマエオカさん、中学生のころ、ムササビが飛ぶ場面を何度も見ており、今もいると思っていました。しかし調べると、お城では滅んだ可能性が極めて高いと分かり、書き換えました。
和歌山市立こども科学館の土井浩さんによると、ムササビは樹齢100年以上で幹の太い木のうろを巣にしていました。同館が2002年にまとめた報告書には、1991年11月に確認したのが6匹、ムササビらしき動物も含めると10匹とあります。それが95年10月、オス2匹の死体が見つかって以降、ぱったり見なくなったそうです。
いなくなったのは、この時期、すみかだった古木が次々と枯れたからです。では、なぜ枯れたのか。夜間にライトアップされる天守閣の眺望を良くするため、高木を切った結果、木々の間に光が差し込み、森が乾燥した。ちょうど同じタイミングで雨の少ない年が重なり、バタバタと巨木、すなわちムササビのすみかが奪われてしまった。巣のある木を直接切る訳でなく、まさかそんな影響が出るとは思っていなかったのでしょう。ただ、観光面から木を切った結果、生態系が変化し、天守閣が建てられる前からいたであろうムササビは滅んでしまいました。
生物多様性の重要性が叫ばれる昨今です。県も3月末、「生物多様性和歌山戦略」を策定しました。地球上の生き物は互いにつながり合い、バランスを取りながら生きています。当然、人間もそんな生き物の一つです。開発や乱獲、あるいは外来種の持ち込みなどで人間がバランスを崩すと様々な影響が出ます。和歌山城ではムササビがそうでしたが、次に大きなしっぺ返しを受けるのは人間かもしれない。そのことを忘れてはなりません。 (西山)
(ニュース和歌山2016年4月9日号掲載)