火災や自然災害発生時に地域住民を守る消防団に女性団員が増えている。現在、和歌山県内に244人おり、10年前から106人増加した。和歌山市では分団に所属する25人が男性と変わらない活躍を見せ、紀の川市は今秋、女性ならではのきめ細やかさを生かし、住宅訪問や広報活動をする女性のみの消防グループを結成する。高齢化や近所付き合いの希薄化で団員確保が課題になる中、女性団員への期待が高まっている。
消防団は市町村が管轄。団員は常勤の消防士と違い、他の仕事に就き、所属する地域で災害が起きた時に駆け付ける。消火や救援活動のほか、普段は火災予防の啓発や訓練を行う。県内には現在、1万1849人おり、10年前から800人減少。高齢化と人口減少が主な原因で、担い手確保が課題だ。そんな中、各消防団は女性に加入を呼びかけ始めている。
和歌山市は団員1711人のうち50人が女性。25人が音楽隊として活動し、25人はそれぞれの地元の分団に所属する。市内最多の5人がいる和歌浦分団は日方広行分団長(66)が「和歌浦は高齢者が多く、住民に細やかな心遣いができる女性こそ、これからは必要」と2009年から女性に入団を勧めてきた。
旅行会社に勤める吉田直美さん(61)は知人に誘われ7年前に入った。訓練や祭りの警備、避難訓練の誘導と様々な業務をこなす。「仕事も家庭もあり、身体が小さく初めは不安だった。でも、自分の地域を守る熱い思いさえあればどんな女性でも続けられます」と語る。昨年は同市の女性団員でチームを組み、消防ポンプ操法を競う全国大会へ出場。6ヵ月間の猛特訓に励んだ。
4人の女性が活躍する宮前分団の山本清美さん(50)は、市全体の女性団員と交流しようと顔合わせ会の開催を考えている。「各分団だと人数が少ないけれど、女性25人がつながれば、大規模災害時に他地域と連携を取り、よりスムーズに対応できるはず」と意気込む。
一方、紀の川市は1371人の団員中、女性はわずか2人だ。3年前に那賀方面隊に入った地村美貴さん(44)は介護福祉士で2人の子を持つ母親。訓練を重ね、救命救急の上級資格を取って災害に備える。一方、「女性だからこそできる消防活動を追求し、地域にもっと役立ちたい」と市や方面隊長らとともに女性のみでつくるグループの結成を決めた。今秋発足予定で、主な活動は広報や救命指導、高齢者宅の巡回など防火の啓発だが、大規模災害時は出動する。4月の募集から既に20人の定員に近い応募がある。
同市消防防災課は「男性のイメージが強く、団員集めは厳しいと思っていた。東日本大震災や熊本地震で消防団の活動が見直され、地域貢献を望む女性が増えた」とし、「男性だけでは力を入れられていなかった減災活動や、被災者の心のケアなど地域住民に寄り添ったグループにしていきたい」と描く。
昨年4月現在、全国では2万2747人の女性団員が活躍するが、海南市、岩出市など県内には0人の市町もある。県危機管理・消防課は「大規模災害時は特に、消防士は市域全体を統括しなければいけないので、隣近所の顔までよく知っている地域に根付いた消防団が欠かせない。女性の活躍をきっかけに消防団が注目され、男女問わず若者の入団につながれば」と期待している。
写真=水圧がかかるホースの筒を持ち、消火訓練に挑む和歌浦分団の女性団員
(ニュース和歌山2016年6月18日号掲載)