Q.クラブ活動をしている子どもが頭痛を訴えます。16歳の長男のことで相談します。最近、よく「頭が痛い」と言うようになりました。高校のクラブ活動で球技をしており、先日、試合中に頭をぶつけて倒れたそうです。それが原因でしょうか。
◆脳神経外科 今村病院 今村 和弘院長
A. クラブ活動中に頭部をぶつけ、その後、頭痛等の不調を訴えることはよくあります。これは、青少年に限らず、スポーツをする成人でも同じです。
私たち脳神経外科医は、スポーツリハビリやスポーツでの頭のけがを診察する立場から、「スポーツ頭部外傷に関する提言」等の冊子を作成し、現場指導などを行っています。スポーツでの頭痛には様々な原因が考えられますので、一概に答えは出せません。保護者から子どもを見て、いつもと様子が違うならば、お近くの脳神経外科を受診してください。そこで競技への復帰の判断や継続的な受診が必要かどうか指示されます。
■脳神経外科受診のタイミング
ここからは、スポーツをしているご本人や、その指導者に向けてお話しします。脳神経外科を受診するべき状態は次の通りです。①意識消失=1分以上続く重症意識消失の場合、もしくは数十秒でも明らかな意識消失があった場合。②健忘や記憶障害=頭をぶつけた直前の記憶が無い、または記憶が無い状態が1時間以上続く場合。③頭痛=打った場所やたんこぶ以外の場所が痛かったり、打った場所の痛みが数日間続く場合。
これらは、頭部を直接ぶつける激しいスポーツ、例えば柔道やラグビー、スノーボード、スキー等だけに見られる障害ではありません。野球やテニス、ゴルフなどでも起こることがあります。つまり、体をぶつけ合う激しいスポーツでなくても、頭が揺さぶられる状態と同様のことが起こるのです。
そしてもう一つ大切なのは、「頭痛やその他の症状が続いているときには、決して競技を再開してはいけない」ということです。健忘のみであったり、意識障害のない脳しんとうなどは、ものの数分で症状が良くなったりしますが、一度脳しんとうを起こし、1週間以内に再度脳しんとうを繰り返すと、重大な脳の損傷や後遺症などが残ることが明らかになっています。
■普段と異なる様子は危険
頭痛等を訴える選手の様子が一見、正常のようだったとしても、▽目をつぶって片足立ちが20秒以上できない▽今いる競技場が答えられない▽最近どこのチームと対戦したか、その試合の勝ち負けはどうであったかなどが答えられない等は、危険なサインです。このように、指導者や周囲の人が見て、普段と違う様子が見られれば、脳神経外科の受診が必要です。
スポーツは決して悪いことではありません。選手たちがより安全に楽しくスポーツできるよう、指導者の方に頭部外傷や脳神経外科のことを十分に理解していただければと思います。
Q.右足の付け根が腫れ、脱腸と診断されました。痛みはありません。
◆消化器外科・一般外科 福外科病院
日本外科学会認定専門医・日本大腸肛門病学会認定専門医
福 昭人院長
A. 腹圧が加わると下腹部が少し腫れるのが、脱腸の初期症状です。次に、突っ張り感、違和感、引っ張られる感覚が出てくれば黄信号です。さらに悪化すると大きく腫れ上がり、緊急手術になることもあります。
外科専門医であれば、視診、触診で脱腸の確定診断を下せます。ただし、痛みがある場合はCTをとることもあります。治療は基本的に手術です。手術は従来、腫れている部分を4㎝ほど直接切開する「前方切開法」(図1)が一般的でしたが、近年は、内視鏡を使った「腹腔鏡下手術」(図2)が主流です。これは、お腹を3カ所、5㎜~1㎝程度切開し、特殊な医療器具を入れて、お腹の中でヘルニアを治療するもので、病巣部の痛みはほとんどありません。当院では、当日の朝入院して手術し、夕食後に退院するのが基本方針です。どちらの手術方法もそれぞれ一長一短があります。まずはかかりつけ医に相談し、外科専門医を紹介してもらってください。
Q.骨粗しょう症になると、寝たきりになりやすいと聞きました。
◆内科・老年内科 あきさきクリニック 明嵜 太一院長
A. 骨粗しょう症は骨が構造的に弱くなってスカスカの状態になり、骨折しやすくなる病気です。背骨が曲がったり、身長が縮んだりするのもよく知られた症状で、背骨が軽い衝撃や体の重みでつぶれ、圧迫骨折に至ってしまいます。
女性に圧倒的に多く、50歳以上の女性の3人に1人が骨粗しょう症だと言われています。これは、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が骨の新陳代謝に関わっているからで、女性は閉経を迎えるとエストロゲンの分泌量が大幅に減るため、骨量が急激に減少するのです。
高齢者の骨粗しょう症による骨折は、寝たきりにつながりやすくなります。平成26年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、介護が必要となった主な原因の第4位が「転倒・骨折」(11・8%)でした。なかでも、太ももの付け根(大腿骨)を骨折すると寝たきりになる例が多く、寝たきりになると死亡リスクも上昇すると考えられています。
骨粗しょう症の診断は、検査機器の置いてある医療機関で簡単に受けられます。50歳以上の女性は定期的にチェックするようにしましょう。その上で、医師の指導のもと、食事療法や運動療法、薬物療法に継続的に取り組むようにして下さい。
Q.83歳女性、糖尿病です。最近、体重が減り、足の力が衰えてきました。
◆循環器内科 みなかたクリニック 南方 常夫院長
A. ご質問者様はHbA1c6.0%と血糖コントロールに努めているようですが、最近、体重が36㎏に減ったとのこと。これは、高齢者糖尿病におけるフレイル・サルコペニアという状態と考えられます。
フレイルとは、高齢期に生活機能が低下し、ストレスを受けやすくなったり、生活機能障害、要介護状態に陥りやすい状態を指します。そのフレイルの中心的病態が、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)です。骨格筋量は加齢に伴い減少し、70歳を超える頃から全筋肉量の15%程度が喪失するといわれ、死亡リスクが上昇します。
この度、糖尿病治療ガイドラインが改訂され、75歳以上の高齢糖尿病患者に重症低血糖を起こす可能性のある薬剤を使用する際、血糖値はあまり下げすぎないよう、目標値と下限値が次のように設定されました。▽認知機能が正常または軽度で、社会的サポートが適切に受けられる場合HbA1c8.0%未満(下限7.0%)▽社会的サポートに乏しく、多くの併存疾患や認知症があり、治療が困難な場合HbA1c8.5%未満(下限7.5%)。
フレイル・サルコペニアの対策と予防には、運動、栄養、薬(ビタミンD、漢方薬)などがあります。主治医の先生とよくご相談ください。
Q.下痢が続いた後、肛門の周りが腫れてきて、ズキズキ痛みます。
◆外 科 楽クリニック 藤田 定則院長
A. 肛門周囲膿瘍のようですね。この病気は、肛門の脇に膿がたまり、強烈な痛みを伴います。形のない便や軟便の方(飲酒で下痢をする方も)、温水洗浄便座を常用している方、疲労等で抵抗力が弱っている方がなりやすいです。小さければお薬で治りますが、基本は切って膿を出す治療が必要です。
初期症状は肛門の違和感で、次第に痛みに変わります。1日ほどでさらに肛門の脇が腫れていることに気づきます。腫れは急速に大きくなります。
膿がたまって腫れているところに穴が開き、排膿すると急に痛みが改善されます。膿が出ると1~2割の方は自然治癒するようですが、完治したのではないので注意が必要です。
症状を繰り返す方は、次の段階である「痔ろう」という病気に進行します。痔ろうは根治手術が必要です。放置すると複雑な痔ろうに悪化し、まれに痔ろうがんになることがあります。
肛門周囲膿瘍を疑ったり再発する方は、早めに医療機関を受診するようにしてください。
Q.子どもの場合も、かみ合わせによる不調はあるのでしょうか?
◆歯 科 吉村歯科医院 吉村 義孝院長
A. 直立二足歩行の人間にとって、あごは全身のバランサーの役目を果たしています。下あごは、頭部の前下方に斜めにぶら下がり、上あごと下あごの間には2~3㎜の隙間があります。下あごがずれると、頭と頭を支える頸椎もずれようとし、頭と頸椎のずれを防ごうとして頭・頸部の筋肉が無理な働きをします。頸椎のそばには、脳へ血液を送る大きな血管があるため、ここの筋肉が不自然に硬直すると、脳や首回りの血流障害が起こり、頭痛や不眠、集中力の低下など様々な症状が起きたりするのです。
さらに、下あごのずれは、脊柱のゆがみを引き起こし、首・肩のこりや、胸椎、腰椎の湾曲によるさまざまな全身症状を引き起こす可能性があります。
子どもの場合、乳歯列の時期は、顎関節が未発達である等の要因もあり、下あごがずれやすい構造になっています。また、乳歯と永久歯が混ざっている混合歯列の時期は、不規則に歯の交換が行われるため、かみ合わせにがたつきが生じ、あごがずれやすくなります。もちろん、大人と同様に、下あごの位置がずれると頭痛や首こり、姿勢不良、不眠等の症状が現れます。
子どものかみ合わせは、なるべく早い段階で対処することをお勧めします。
Q.女性の間で話題の「プラセンタ」って何ですか? 安全性は?
◆消化器(内科・外科) 上中クリニック 上中 博之院長
A. 最近話題のプラセンタ(Placenta)は、英語で「胎盤」を意味します。マリーアントワネットや楊貴妃、クレオパトラといった美女が若さを保つために、胎盤から作った生薬を愛用していたと伝えられています。
胎盤はタンパク質、脂質、糖質の3大栄養素を筆頭に、ミネラル、ビタミン、酵素、核酸など多彩な栄養素を成分とし、肝細胞増殖因子、神経細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、肝実質細胞をはじめ、諸組織の細胞の増殖・神経細胞の増殖因子、免疫力を向上させる成長因子など、様々な成長因子を含んでいます。人間以外の哺乳動物は出産後、母親が胎盤を食べてしまいます。これは、出産で失った体力の回復や体のバランスを取り戻すため、胎盤の栄養素が必要であると分かっているから。プラセンタは代謝機能を促進することにも役立ちます。
胎盤を原料として製剤化した物がプラセンタの注射や内服薬です。注射薬は、人の胎盤由来の物で、内服薬は近年、豚の胎盤由来の物が主流です。注射薬は「薬事法」と「安全な血液製剤の安定供給の確保に関する法律」のなかで生物由来製品及び特定生物由来製品が指定されているほか、生物由来原料基準により安全に管理され、一部保険適用もあります。
(ニュース和歌山2016年7月23日号掲載)