トヨタが全国の若手職人を支援する「レクサス・ニュー・タクミ・プロジェクト」の「匠」に、岩出市の根来寺根来塗塗師、松江那津子さん(35)が県内で唯一選ばれ、国内外で販売や情報発信するための作品づくりに打ち込んでいる。「手元に置いて愛用される作品を目指しています。県代表として良いものを届けたい」と意気込んでいる。
プロジェクトは各地域にゆかりがあり、特色を生かした作品づくりを行う職人が選ばれ、草木染めや張り子、和紙など全国52人が名を連ねる。作家は、同社の支援を受けて作品を仕上げ、来年1月の発表会で国内外のバイヤーやマスコミに紹介できる。
海南市出身の松江さんは大阪府立大学で樹木について学び、木の工芸品に興味を持った。卒業後は事務職として働いていたが、市民講座で根来塗を体験。400年以上の歴史を誇り、使うことで美しさを増す〝用の美〟とたたえられる根来塗の魅力にとりつかれた。その復興と伝承に取り組む塗師、池ノ上曙山(しょざん)さんに師事。塗師の上級講座をわずか3年という異例の早さで主席修了し、現在は市民講座の講師を務める。
下地から仕上げの朱塗りまで25回もの塗り重ねを行う眉間寺椀を制作。大中小の3つの椀を重ねられるのが特徴で、特に下地塗りの精度が椀の重なり具合を左右する。指導する池ノ上さんは「下地塗りは器の強度を保つ上でも重要で、松江さんは丁寧でムラなくできています。一方で、大胆なハケ使いもでき、その荒っぽさが、仕上げの朱塗りでハケ跡を残して味わいを出す根来塗に生きます」と見守る。
12日には仁坂吉伸知事が製作現場を見学。仁坂知事は「選ばれたのは道具や材料を作る職人など周囲の支えがあってこそ。これからも良い物作りを続け、名人を目指して頑張ってください」とエールを贈っていた。
写真=仕上げの朱塗りを実演する松江さん
(ニュース和歌山2016年9月17日号掲載)