女性が活躍できる社会づくりを国が進める中、女性の起業への関心が高まっている。日本政策金融公庫和歌山支店が今年度上半期に女性へ行った創業融資は、昨年同時期の16人から31人と約2倍に増加。自治体や商工会議所は支援制度を充実させ、活躍を後押しする。今後も増えるとみられ、同支店は「夢を持ち、自らのライフスタイルを大切にしながら創業を目指す女性のケースが目立ってきている」と話す。
「一人ひとりのお客様を思って作る家庭的なお弁当がコンセプト」と笑顔を見せるのは、来年1月に和歌山市友田町で宅配専門の弁当店「登旗屋」を開く吉尾麗望(れいみ)さん(37)。オープンに向け試作品作りやパートの面接と準備に奮闘する。
2児の母親でもある吉尾さんは、土日や夜遅くまで拘束される飲食店店長の仕事を今年5月に退職。「何よりも大切な子どもとの時間を第一にしたい」と同支店の融資を受け、会社員を対象とし、平日昼過ぎに終わる弁当店開業を決めた。「毎日が不安との戦いですが、前を向くのみ。自分の思いを形にでき、やりがいを感じる」と目を細める。
同支店による今年度上半期の創業融資は110件で、うち男性起業家が79人、女性が31人。男性は昨年同時期に比べ1割減少し、女性は2倍に増えた。融資第一課の厚木(ほおのき)佑一さんは「自宅や空き店舗を活用し、エステサロンやネイルサロンにするなど低リスクで始める人が多い」と語る。日本公庫は昨年から創業する女性に融資の金利を低く設定し、300万円以下の小口融資を受ける条件を緩和する特例を設けている。厚木さんは「融資の間口が広がり、公的機関の支援が充実してきたため、女性が増えたのでは」とみる。
また、和歌山市は日本公庫の融資で起業する市内在住の女性に、利子の一部を3年間補う制度を昨年度に開始。昨年は5人が活用した。和歌山商工会議所も今年度、女性に特化した支援事業「ウーマン・サポート」を立ち上げ、女性の先輩起業家や税理士らによる講座、交流会を開く。
8月、和歌山市吉田にカルチャー教室を兼ねた飲食店「ミュージックサロン・ピアニシモ」を開業した水田要子さん(56)は、日本公庫の融資と商工会議所の講座を活用した一人だ。介護していた母親を昨年亡くし、体調を崩したことから、32年間勤めた中学の音楽教諭を3月に早期退職した。高齢者へのボランティア活動の経験と趣味で取った飾り巻き寿司の資格を生かして、高齢者が歌や楽器で交流し、資格や特技のある人には気軽に教室を開ける場として開放する。
水田さんは「初めは起業のイロハも分からなかったが、公庫や商工会議所のアドバイスで実現できた。世界が広がり、刺激がある毎日。やりたいことがどんどん浮かんできます」と目を輝かせる。
中小企業庁の地域創業促進支援事業を受託した岡会計センターが2年前から同市で開く創業スクールは、これまで91人が受講。女性は約6割の52人で、うち22人が事業を起こしている。
同センターの岡京子社長は「融資を受けず、自己資金で小さく起業する女性も増えています。家事や育児との両立を求められる度合いが高い女性は、やりくりしながら起業している分タフで、より生活に密着した事業を立ち上げている。社会を陰で支えてきた女性による本来の能力を生かした創業が増えれば、暮らしはもっと豊かになる」と期待している。
写真=来年のオープンに向け試作品作りを進める吉尾さん
(ニュース和歌山2016年12月3日号)