昭和のレトロなファッションを通じ、おばあちゃん世代と若者が交流する機会をつくろう──。向陽高校3年の大瀬ららさん(18)がプロジェクト「トラフスタイル」を立ち上げた。「寝かせている服を起こし、オシャレでかっこいいお年寄りを増やしたい」と意気込む大瀬さんが目指すのは、ゆるやかな地域コミュニティづくり。「南海トラフ地震に備え、若者とお年寄りが声を掛け合える関係を築く、新しい防災の形になるはず」と話す。
ヒョウ柄のファーコートにAラインのミニワンピース、凝った装飾のボタンが付いたジャケット…。1960〜80年代の女性服で、「安価な大量生産のファストファッションとは違い、凝った作りや素材がすてき。他人とかぶらない所もいい」と声を弾ませる大瀬さんは、普段から祖母の中谷節子さん(65)の服を身につける。
着物や洋服が好きな中谷さんは「私もたくさんの服を受け継いで来て、現在86歳の人が20歳のころに着ていた服もあります。やはり良いものはいつまでも良いし、リメイクもできる。若い子が着てくれるのはうれしいものですね」と目を細める。
大瀬さんは東日本大震災を機に、やがて来る南海トラフ地震について不安を感じるようになった。本やインターネットで調べる中、いざという時、救助を待つより身近な人が助けられるよう、自分たちの世代とお年寄りが日ごろから交流を持つ方法を考えていた。
そこで、目を付けたのがファッションだ。ネットオークションで古着を集めコーディネートに取り入れる若者が多いことから、お年寄りの家にたくさん眠る服を活用した取り組みを思いついた。アートイベントを手がける同市の小川貴央さん(41)に昨秋相談し、アパレル業の勤務経験がある叔母にアドバイスを受け、コーディネートを画像共有アプリ「インスタグラム」に投稿し始めた。
今後、ばっちりヘアメークをきめ、色鮮やかなファッションに身を包んだオシャレなおばあちゃんたちを連れ、県内の観光名所や商店街などで撮影し、動画サイト「ユーチューブ」で配信。古い洋服を着こなした若者の写真をインスタグラムで閲覧できるようにする。現在は節子さんの友人らに声をかけ、衣装やモデルを集める。
小川さんは「ニューヨークで暮らすオシャレなマダムを取り上げた『アドバンスト・スタイル』というドキュメンタリー映画が流行した。外出したくなる、声をかけられるなど、オシャレなお年寄りが増えることは色んな効果を秘めている」と話す。
インターネット上だけでなく、実際にお年寄りと若者が集まるイベントを計画中。『アドバンスト・スタイル』を上映後、ファッション性の高い古い洋服を集め、自由に着られる撮影会を行う。洋服を通じ、コミュニケーションを促すとともに、SNS(ソーシャルネットワーキングサイト)で広く発信する。
大瀬さんは「『家にいてもつまらない』と嘆くお年寄りにもっとイキイキしてもらいたい。年をとっても美しい姿を発信していければ」と実現に向け奔走している。
(ニュース和歌山2017年1月14日号掲載)