ぼくは、小学4年生の男の子。名前は杉村すぐる。今日、ぼくは暗い気持ちで、一人でとぼとぼと学校から帰っていた。何度やってもリコーダーがうまくふけないのだ。先生にも、「次はテストをするから、しっかり練習しておきなさい」と言われてしまった。はぁぁ、と大きなため息が出た。

 その時、鳥の羽音がぼくの耳元で聞こえた。ふり返ってみると、めずらしい鳥がすぐ近くの低い木にとまって、ぼくの顔をじっと見ていた。ぼくは鳥が大好きなので、だいたいの鳥の名前は知っているけれど、この鳥は見たことがなかった。

 しばらくしても、やっぱりぼくのことを見ている。ぼくをなぐさめてくれているのだろうか。ほほえみかけているようで、ぼくはとても不思議な気持ちになった。家に帰って、図かんやインターネットで調べても、その鳥はみつからなかった。

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 それからというもの、学校へ行くと中のゆう便局の前までくると、必ずぼくの近くまで飛んできてくれてほほえんでくれるようになった。

 ぼくはその鳥のことを〝えがお鳥〟と呼ぶことにした。いつのまにかぼくはえがお鳥に会うのが毎日、楽しみでしかたなくなった。そうしているうちに、えがお鳥と別れがたくなった。

 とうとうある日、ぼくが「おいで」と言うと、ちょこんとぼくのかたにとまって家までついてきた。お父さんとお母さんにぼくたちが前から友だちになっていたんだってことを話すと、「かってもいいよ」と言ってくれた。

 これからはずっといっしょだ。名前を考えなくっちゃ。「そうだ! こんなきれいなルリ色の羽をもっているんだからルリにしよう!」。ぼくの部屋に入ると、ルリは机の上においているリコーダーの上にとまって、「チュンチュン」と鳴いた。

 ぼくがリコーダーを手にとったらルリはうれしそうに羽を上下にさせてみせた。そして、ルリがぼくのかたの上にとまって、「チュトトトチュラ」と、とても心がおどるような声で歌った。ぼくは思わずいっしょになってリコーダーでふいた。今まで大きらいだったリコーダーが楽しくてたまらなくなった。全部ふき終わるとぼくはルリに向かって言った。「やった! ふけた!」。ルリは一番最初に出会った時と同じようにやさしくほほえみ返した。ぼくがリコーダーを手にすると、ルリはきまってすばらしい曲を歌ってくれた。

 いよいよ音楽のリコーダーのテストの日がやって来た。先生が、「さぁ、今日はリコーダーのテストをします。みんな、ふけるようになったかな?」と聞くと、「はぁい」とみんなが答えた。その中でもぼくの声が一番大きかったので、先生は少しおどろいた様子だった。

 まどの外を見ると、ルリがいっしゅん、ぼくにウインクしたように思えた。「次、杉村君」と先生が言った。ルリがまどの外で歌をうたっている。ぼくもそれに合わせてリコーダーをふいた。今までで一番楽しく、ゆうがな曲だった。

 ふき終わった後、クラス中からいっせいにはく手があがった。ぼくは天にものぼる気持ちでルリに目で合図をおくった。「ありがとう、ルリ。ありがとう、えがお鳥」

(ニュース和歌山2017年1月14日号掲載)