企業と県内の山地を橋渡しし、森の保全と山村活性化を同時に図る和歌山県の「企業の森」。2003年に県が全国に先駆け、注目された取り組みは15年目を迎え、現在、76の企業・団体が約270㌶の森を守るまでになった。近年は2ヵ所目に乗り出す企業が増える一方で、同様の事業を行う自治体が全国的に広がり、和歌山ならではの次の一手が求められている。
開始15年 76社・団体が保全
県が、森林保全での社会貢献を望む企業と希望する活動に合う森林を調整し、合意に至ると、県、企業、活動地の市町村が保全管理協定を締結。企業は、森林所有者と無償貸借契約、森林組合と日常的な保全と活動のサポート契約を結ぶ。背景には、企業に社会貢献が欠かせなくなり、山村は森が荒廃し、林業の担い手不足が深刻となった状況があり、県森林整備課は「企業と山村の〝困った〟をつなげ解決を図った」と語る。
公有林でなく、行政が企業と民有林をつないだ点が画期的で、和歌山大学観光学部の大浦由美教授は「契約期間が10年と森林組合が若い人を雇う見通しがつけやすく、企業の森の仕事を新人の修業の場にできた。環境林整備を公共事業化したのが大きい」と評価する。
ユニチカ労働組合を第1号に現在まで76企業・団体が参加。パナソニック・エナジー社やサントリー、資生堂、楽天と都市部の企業も多く、研修、レクリエーションでの活用が大半だ。特にここ数年は契約期間を終え、継続する企業が目立つ。
花王和歌山工場は今春、2ヵ所目の森づくりを紀美野町の生石高原近くの0・8㌶で始めた。先の10年は同町内の0・7㌶の山地に植樹し、毎年、社員と家族によるレクリエーションと海外工場のリーダー研修の機会に下草刈りをし、森を育て上げた。同工場地区サービスセンター環境グループの岡広史課長は「社員、家族の連帯感が生まれ、参加者数は右肩上がり。海外の研修者からは、『自分たちもボランティアを考えたい』との声が聞けました」。
新たな場所では企業の森として初めて現地に自生する樹木での森づくりに挑戦する計画で、「復元に近い形を目指します」と力を込める。
関西電力労働組合は04年、田辺市本宮町の山林1㌶に約1000本を植樹し、家族参加のイベントや研修時に作業した。昨年からは関労和歌山地区本部として同じ本宮町の山林2・6㌶に移り、活動を継続。20〜30代の研修で定期的に下草刈りを行う。川端康史副執行委員長は「農作業を体験する県の『企業のふるさと』も同時に行い、地元とのつきあいが深まった。団体なので現地に経済効果も生んだと思う」。
企業の森による地域への経済効果は、植樹や育林、催しなどを含め、これまで約10億円にのぼるとみられ、大浦教授は「弁当の注文を受け、地域が地元の食材を見直し、起業が進むなど効果がみえた。森林整備だけでなく、県が地域交流を促したのが大きい」とみる。しかし、全国で同様の事業が増え、企業も近場を選ぶ傾向がうかがえる。「飽和状態ともいえ、現在、見直しの時期に来ています。和歌山は、癒やしや世界遺産、水、川のリフレッシュ効果など独自のプラスアルファを打ち出せる。県内企業や森林所有者へのさらなるPRも欠かせません」と語る。
県事業としても長期に及んだ企業の森。県森林整備課は「道路網整備が進み、企業は滞在時間に余裕が生まれます。活動圏内のスポットや旬の情報を提供し、和歌山の良さにふれてもらいたい」と話している。
P=花王は今春から2ヵ所目の森林保全に取り組み始めた
(ニュース和歌山より。2017年5月6日更新)