人間味ある雰囲気残す
「傾いたラーメン店」として有名な和歌山市有本のまる豊が、5月28日(日)を最後に本町9丁目に移転する。35年間営業を続けた地を離れるが、店主の豊田二郎さんは「カウンターや提灯、看板など使えるものは使い、店の雰囲気を持っていきたい」と前向きだ。
三重県伊勢市出身の豊田さんが1982年に開いた。当初はラーメンも出すカラオケ居酒屋で、傾きはなかった。しかし、5年が過ぎたころに地盤沈下が始まり、建物が徐々に傾きだした。「初めは商売に夢中で気づきませんでしたが、汁がこぼれ、コップが滑って分かりました」
傾きに対応するため、鉢を水平にする「こぼれん棒」を製作した。食べる際、客に鉢の下に置いてもらう独特のスタイル。その後、なじみだった同郷の知人が平板(たいらいた)と名付けた斜めになった板を15枚プレゼントしてくれた。
「実は、カウンターだけでも水平にしようと考えていたのですが、常連客から『直したら、もう来ない』と反対されました。気に入ってくれていることが分かり、このままでやると決めました」と振り返る。
地盤沈下がおさまってからも、傾いたまま営業を続けた。1990年代には和歌山ラーメンブームで各種テレビ番組に出演し、全国的に知られるようになった。テレビで見た珍しい店と訪れる人もいるが、味の良さを求めるリピーターに支えられる。「我流でいろいろ研究し、あっさりだがコクがあるラーメンです」
カウンターだけの9席で、店主と客同士の距離の近さが魅力。20年以上通い、家族ぐるみで付き合う落語家の桂枝曾丸さんは「今の時代、人間くささが求められているんでしょう。オヤジさんの人柄にひかれ、なじみ客だけでなく若い人が来ています」と目を細める。
移転は昨秋、地権者に求められ決意した。新店は20人がゆったり座れる。「傾きはありませんが、こぼれん棒も平板もカウンターに置きます。求められる限り、店を続けます」と力を込めた。
現店は午後5時〜午前3時。6月1日(木)オープンの新店は午前11時〜午後10時。いずれも火水定休。同店(073・432・2967)。
写真=店主の豊田二郎さん(中央)と妻・明子さん(左)、常連の桂枝曾丸さん
(ニュース和歌山より/2017年5月13日更新)