「かんぱーい!」。帰宅ラッシュで多くの人が行き交う和歌山駅9番ホームで生ビールを飲み干す会社員たち。和歌山電鐵が7月に試行した「ホームビール」の様子だ。駅のホームや電車内でビールを飲める取り組みが全国で広がりを見せ、和歌山県内でも鉄道各社が取り入れている。和歌山電鐵は8月25日(金)に再び同駅で実施。JR西日本和歌山支社は6月、南海電鉄も8月に車内でビールを楽しむツアーを行った。いずれも乗客増が目的で、「普段と違う雰囲気を味わえる」と好評だ。
ホームに出店やツアー企画
近年、鉄道会社はビールを使って集客する企画を次々と打ち出している。関西では京阪電鉄は駅に停車させた電車内とホームでビール酒場を、京福電鉄は嵐山駅そのものをビアガーデンに見立てたイベントを開く。全国各地の路面電車では飲み放題の貸し切りビール電車も見られる。
鉄道に詳しい和歌山大学の西川一弘准教授は「気軽にお酒を楽しめる場所ではない〝異空間〟で飲める面白さがある。鉄道会社主催で酔客対策もでき、ビール会社の消費促進、鉄道の集客増と双方のメリットから増えている」と分析する。
こうした流れを受け、和歌山電鐵は7月25、26日、ホームにテントを組んで提灯や風鈴で飾り、ビールやあてになる缶詰を販売した。仕事帰りの会社員やかき氷を買い求める学生らでにぎわった。紀の川市の会社員、照井邦豪さんは「暑い日が続いているのでありがたい。電車の待ち時間が約半時間で、お店に入るほどの時間もない。ホームで手軽に飲めるのはうれしい」と笑顔を見せた。
企画した和歌山電鐵の親会社、岡山電気軌道は岡山市内の路面電車でジョッキビールを提供する「ビアガー電」を運行。「流れる街の景色を楽しみながら飲める」と人気で、貴志川線で実施しようとしたが車内の揺れが大きく難しかった。和歌山電鐵は「サービスの向上が目的。夕涼みにホームで飲んでもらい、貴志川線に乗ってくれる人を増やしたい」と望む。
一方、JR西日本和歌山支社、南海電鉄はそれぞれ車内でビールを楽しむツアーを企画。JRはキリンビール和歌山支社と連携し6月に臨時列車を走らせた。和歌山駅から紀伊田辺駅へ向かう車内で1人につきビール4本と弁当を配布。海の景色が広がるスポットは電車の速度を落とした。JRは「鉄道は車と違ってみんながお酒を飲める。このメリットを実感してもらう機会になった」と話す。
また、南海電鉄は8月12日に加太線の観光列車「めでたいでんしゃ」でツアーを実施。車内で缶ビールやうめどりを使った唐揚げ、加太駅で名産の鯛を使った鯛コロッケを味わってもらった。加太駅では加太漁業協同組合がさざえのつぼ焼きを販売。同組合は「ビールがあれば食事も進む。加太の魚介を充分に楽しんでもらえた」。南海電鉄は「沿線活性化策の一つ。冷えたお酒を手に会話を弾ませ、加太の夏を満喫してもらうことで利用者増につなげたい」。
公共交通の利用促進に取り組むわかやま小町の志場久起事務局長は「ホームの立ち食いそばや、かつて新幹線や特急にあった食堂車は姿を消した。そんな中、ホームや電車内でお酒をはじめとする飲食を楽しむ〝非日常〟が新鮮なものとして受け入れられている。地域の特産をつまみにしてPRでき、こうした企画は今後も増えるだろう」と見ている。
和歌山電鐵のホームビールは8月25日午後5時からで、売り切れ次第終了。和歌山電鐵(073・478・0110)。
(ニュース和歌山/2017年8月19日更新)