「戦後、曾祖母(そうそぼ)と祖母が開いた大衆食堂のような、多くの人に長く愛される店に」と8月、和歌山市畑屋敷葛屋丁にオープンした「食堂ことぶき」。店主の阪本万美さん(43)は、海外生活を経て開いた、創作料理が人気のカフェ「ti・po」を改め、昔ながらの食堂として再出発した。薄口で優しい味つけは、家庭的で温かい。

白米にこだわる

 客席に届く膳(ぜん)に小さな土鍋が一つ。木蓋(ぶた)を開けると、蒸気と共に白米の甘い香りが立ち上がる。

 「農薬を使わずに育て、天日干しした県産米です。土鍋で炊くとツヤツヤでモチモチになる。新潟を旅行した時、料理の印象より記憶に残ったのはお米の甘み。当店のおかずは、ごはんをおいしく食べられるものを添えています」

 白ごはんに、季節の食材を使った椀物、おかず3種がついた「旬汁三菜」は定番。料理の内容は週替わりだ。

 「その日仕入れた食材で調理法を決めます。魚だと、身の厚さや脂ののりで焼く、煮る、天ぷらや刺身など使い分けます。食材と対話して素材の味を引き立たせます」

引き継ぐ味、屋号

 曾祖母と祖母が戦後から同地に「壽(ことぶき)食堂」を構え、ぶらくり丁を訪れる家族や会社員、近隣住民に親しまれた。両親が共働きだったため、曾祖母がよく夕食を作ってくれた。

 「おでん、イワシの酢漬け、おにぎりが好きでした。料理は薄味ながら物足りなさを感じさせず、良い具合に味が定まっていました」

 旅行会社勤務を経て、ニューヨークで7年暮らし、日本食のダイニングキッチンなどで働いた。2011年に壽食堂があった場所でti・poを開いたが、2年前、祖母が脳内出血で倒れたのを機に食堂への切り替えを決意した。

 「ti・poは野菜中心の創作料理が女性に人気でしたが、メニューにはやり廃りがありました。男性や家族連れも来る昔ながらの食堂にしようと思い直し、屋号を継いで再出発することにしました」

 和食中心の食堂で大切にするのは出汁と調味料。みそとしょうゆは種類や製造元で使い分け、昆布やかつお節、鶏皮、魚の骨からも出汁をとる。

 「ソースやタレは料理の印象を左右するので、自分で作ります。同じみそでもメーカーで甘さが少し異なる。曾祖母や祖母が作ってくれたホッとできる味をたどり、納得できる料理を届けてゆきたい」

食堂ことぶき…和歌山市畑屋敷葛屋丁22。月〜水曜=午前10時半〜午後4時半、金〜日曜=午前10時半〜午後10時半、祝日=午前10時半〜午後9時半。閉店1時間前にLO。木曜定休。☎073・422・0559。

写真=人気メニュー「旬汁三菜」

(ニュース和歌山/2017年10月25日更新)