元チーフアシスタント 大瀬克幸さん
1月 石巻の萬画館へ寄贈前に

 漫画の神様、手塚治虫と並び、「漫画の王様」と呼ばれ、『仮面ライダー』など特撮作品の原作も手がけた漫画家、石ノ森章太郎(1938~98)。かつて石ノ森のチーフアシスタントを務めた紀美野町の大瀬克幸さん(69)が1月24日(水)~2月28日(水)、和歌山市古屋のティーズカフェで、本人から譲り受けた原画を初公開する。その後、宮城県石巻市の石ノ森萬画館へ寄贈する。大瀬さんは「最初で最後となる和歌山での原画展。止まっている絵を動いているように見せる石ノ森の画風を感じてほしい」と話している。

 『サイボーグ009』『幻魔大戦』『少年同盟』…。スケジュール表にびっしり埋められた各作品の締め切り日。50年前、大瀬さんが石ノ森の元で働いていた時のカレンダーだ。「睡眠は毎日2~3時間。今もラジオで『オールナイトニッポン』を聞くと、あのころの記憶がよみがえります」

 大瀬さんは福岡出身。工業高校時代に石ノ森のファンだった友人の誘いで漫画を描き始めた。2年の時、石ノ森へ自ら作画したキャラクターを送ったところ、「夏休み、東京へ来ないか」と返事が届き、3年の夏、1ヵ月間住み込みで働いた。「いきなり絵を描くよう言われ、がむしゃらに描きました」。採用の声がかかり、「工業高校で学んだ知識で、図鑑や現物を見なくても車や町の風景を描けたのが、『時間短縮になる』と評価されたようです」と笑う。

 1日平均6作、特集があるときは10作近くこなした。アシスタントの先輩には、後に『マジンガーZ』『デビルマン』を手がけた永井豪らがいたものの、人の入れ替わりが激しく、入社7ヵ月でチーフに。石ノ森から物語の骨子を聞き、それを元に詳細な場面展開や各ページのコマ割りを決めて作画した。「次の展開を先生に聞くと、『まだ分からん』と出かけることも。帰ってきて、『まだやってないのか。大体進めておけよ』と叱られました。無茶ぶりでしたが、今思うと信頼して任せてくれていたのかも知れません」

 チーフとして2ヵ月働いたが、あまりの仕事の忙しさに退職。その際、石ノ森から数々の原画を譲り受けた。中には、石ノ森が中学時代、夏休みに描いたバンビの絵、石ノ森が漫画仲間と肉筆漫画を冊子にとじて回し読みした同人誌も含まれており、石ノ森萬画館の西條允敏さんは「中学生のころはたくさん描いたと聞きますが、目にすることは少ない」と語る。

 大瀬さんは退職後、住友金属へ就職し、和歌山へ。機械を整備しながら、今も作業方法や安全対策など社員向け冊子の挿絵を担当している。石ノ森の生誕80周年を来年に控え、所蔵品の寄贈を思い立ち、最後に和歌山の人に見てもらおうと展示会を企画した。

 展示は、雑誌の巻頭特集で描いた『サイボーグ009』の一コマをはじめ、『三つの珠』『にいちゃん戦車』などの原画20点を並べる。大瀬さんは「手書き漫画全盛の時代。スクリーントーンも使わせてもらえず、背景は一つひとつ線を重ねて模様にしました。線の太さ、濃さからペンの強弱が見え、作者のセンスが伝わります」と話す。

 会期終了後、原画や資料約30点を萬画館へ寄贈する。西條さんは「生誕80周年記念展で、お譲りいただく作品も紹介したい」と心待ちにしている。

 展示は午前11時~午後5時。月、火、第4日曜定休。同カフェ(073・460・4715)。

写真=思い出の詰まった原画を手に笑顔を見せる大瀬さん

(ニュース和歌山/2017年12月16日更新)