手話を普及し、ろう者が暮らしやすい環境の整備を進める「手話言語条例」。2013年、鳥取県を皮切りに全国へ広がり、和歌山県でも昨年末に議会で可決された。都道府県としては14例目で、市町村でも和歌山市、橋本市、日高川町が既に制定。紀の川市は4月から施行と広がりをみせる。手話を使う人に期待が高まる一方で、手話通訳士・者確保など課題は多い。
普及推進 県の責務に〜通訳者人材確保が課題
和歌山県の手話言語条例は、障害者基本法の「手話は言語」であるとの規定を前提に、普及と使用しやすい環境整備を県の責務とした。学習機会の確保、手話を用いた情報発信の推進、手話通訳士らの確保、学校での普及も明記された。県障害福祉課は「手話はコミュニケーションの手段と考えられがちだったが、言語と改めて知って頂き、ろうの方が手話を使いやすい環境にするのが目標」とする。
県聴覚障害者協会の櫻井貴浩事務局長は条例制定に「ろう学校でも強く禁止された時代がありながら手話を守った先人に感謝したい。どこでも手話で会話できる社会を目指してのスタート。県がそれを責務としたのは大きい」と評価。一方で懸念もあり、「手話通訳できる人材の確保が喫緊の課題」と指摘する。
手話通訳士・者は、県聴覚障害者情報センターに登録され、団体や個人からの依頼を受け、同センターが紹介する。しかし、登録者数は約70人。条例の広がりを通じ、多くの催しで手話通訳を置くのが常識になりつつあり、同時に複数から依頼を受け、対応に苦慮する例が出ている。
通訳者養成も担う同センターの小薮恵美子所長は「人口減、高齢化もあり、養成は課題。また手話通訳を必要とする方の活躍の場が広がり、通訳者にも法律や医療など専門知識の必要性が高まっている。量も質も求められています」と語る。
普及のてこ入れも求められる。和歌山市の手話サークル「なかよし」は木曜午後に約25人が集まり、歌を手話で表現するなど楽しみながら手話に触れる。柏木栄子代表は「『手話を学んでどうするの?』と今も尋ねられることがある」と現状を話し、「手話は言葉で表現しにくい表情が伝わり、奥は深い」。県外では手話サークルを支援する自治体もあり、メンバーの中村肇さんは「支援があれば、様々な取り組みをし広げたい」と望む。
県は現在事業を検討中で、県障害福祉課は「広く県民が触れ、興味を持った方がステッアップしていける段階のある講習のあり方を検討している」。小薮所長も「手話を覚えることは人間的成長、心豊かな地域づくりにつながる。子どもから高齢者まで正しく学ぶ機会をつくりたい」と語る。
櫻井事務局長は「今の全国の動きが手話言語法成立につながらないと地域差が生じます。条例を作った市町村も定期的に情報交換が必要。北海道には『手話語』の授業を作る高校があるなど取り組みは様々ですが、全国の状況をふまえた専門的な体制がいります。行政と一緒に意見を交わし、進めることが欠かせません」と強調している。
写真=楽しみながら手話に親しむサークル
(ニュース和歌山/2018年2月10日更新)