タイ北部の山間部で象使いとして生きる日本人女性がいる。和歌山市出身の大亦理絵さん(34)。2015年に活動を始め、昨年、首長族の男性と結婚した。今夏には象とふれあえる体験プログラムを提供する観光スポットを現地で立ち上げる。「観光だけでなく、手芸やコーヒー栽培などの産業を興したい。家族として受け入れてくれた現地の人たちへの恩返しです」と笑顔を見せる。
和歌山市出身 大亦理絵さん 現地の首長族へ嫁ぎ起業
「変な日本人が居座っている」。3年前、現地で話題になった。写真家として世界を飛び回っていた大亦さんは15年、チェンマイから車で約1時間、近隣の山4つほどの敷地をもつエレファント・キャンプ「メーサ」を初めて訪問。象に乗り、キャンバスに絵を描く象を見て魅了された。以来、年4~5回、毎回1ヵ月滞在し、現地の暮らしに溶け込んでいった。そののめり込み方から、愛情を込めて、「クレイジー・ジャパニーズ」と呼ばれるようになった。
メーサは、木を運んだり、家を建てたりといった仕事を機械化により失った象と象使いのための施設。ショーなどの観光業で守ろうと40年前に開設された。広大な敷地には象使いと象が一緒に暮らす集落が点在。20もの山岳民族が村を構える。独自文化を持つ少数民族の保護のため、タイ政府が誘致したもので、大学で文化人類学を学んだ大亦さんにとって、象と人が古くから築いてきた文化や絆を現代に合った形で守り、少数民族の保護にも取り組むキャンプは魅力あふれる場だった。
大亦さんは15年中に象使いの資格を取得。その後、1人で象の世話ができる上級資格まで取り、これまで日本人観光客約60人を案内した。
初めて象と出合った時、案内してくれたのが、カレン族のアムヌォイ・チシ・ラックサックンスッカセムさん(43)だ。首都バンコクで働いたことがあるチシさんは、村で頼りになる知識人。仲間と共に暮らす中で恋愛感情を抱いた。「都会じゃなく自然の中で暮らそうという姿勢に引かれました」
昨年8月に結婚式を挙げた。首長族のしきたりで行事の際は首に輪を何重にも巻くことがあり、「首を伸ばすのではなく、肩を下げるんです。初めは14周でしたが、今は18周巻けます」と大亦さん。チシさんは「電気やガス、水道、インターネットがない中、理絵は地元のだれよりもたくましく、暮らしを楽しんでいる。森の中で象と一緒に暮らさせてあげたい」。大亦さんの両親は「まさか娘がタイへ嫁ぐとは。象に助けられ、ようやくつかんだ幸せを大切にしてほしい」とエールを贈る。
老舗キャンプ、メーサから独立する象使いは少なくない。大亦さんもその一人で、今夏、ミャンマーとの国境付近で自らのキャンプを構える。象によるアートパフォーマンスや試乗体験、象使いの養成、カカオやコーヒー豆の栽培と輸出、山岳民族の薬膳料理の提供を考えている。大亦さんは「時代の変化と共に消えていく文化は世の中にたくさんある。タイで出合った人と象を介した文化の在り方を世界中に発信したい」と描いている。
写真=大亦さん(中央)と夫のチシさん(Ⓒおおさきこーへい)
(ニュース和歌山/2018年2月17日更新)