元高校教諭 梶川哲司さん 『和歌山の公害』出版

 公害・環境研究に取り組む元高校教諭の梶川哲司さん(66)が『和歌山の公害〜海岸線の埋め立て開発をめぐって』を昨年末に出版した。戦後、和歌山市の海岸線に沿って進められた開発に向き合った軌跡を記した一冊。梶川さんは「私自身が和歌山へのトポフィリア(場所愛)に目覚めていく記録でもあります」と話している。

 同市榎原に生まれ、幼いころから二里ヶ浜の美しさに親しんだ梶川さん。高校時代に二里ヶ浜の埋め立てをめぐり、33日のハンガーストライキを決行し、磯ノ浦海水浴場を守った宇治田一也さん(故人)の姿にうたれた。高校教員となってからは埋め立て開発に対し、時に研究者として客観的に調査し、時に反対運動を展開してきた。

 同書はこれまで発表してきた論文を、和歌山大学で環境社会学の講義を担当したのを機にまとめた。8章構成で、2章では二里ヶ浜埋め立ての経緯を振り返り、反対の先頭に立った宇治田さんの思想を探った。「美しかったものに対する哀惜のたまらない気持ちが運動の原動力にあった」「死んでもいい、海が残れば」との本人の言葉を引き、宇治田さんの運動を「自らを超えたものに命を捧げようとする直接行動」であり、物的欲望を解放する「近代」への問いかけと位置づけた。

 5・6章は、最終的に事業が凍結された県の雑賀崎沖埋め立てを論じた。和歌山県が当時描いた港湾利用計画を詳細に調べ、コンテナ貨物の需要予測が実態とかけ離れている点を指摘。住民が港湾の必要性にさかのぼり独自の環境アセスメントを行ったのにも注目した。「住民は反対ありきではなく、自ら調査をした資料を持ち行政に説明を求める姿勢を貫いた。住民運動のモデルとなるスタイル」と語る。

 「和歌山には数々の文芸の舞台になる豊かな歴史、自然がある。この恵みのある和歌山を守りたい」と梶川さん。「高度成長期以降、和歌山が何を得て、何を失ったか考えるきっかけにしてもらえれば」と望んでいる。

 A5判。291㌻。3240円。宮脇書店ロイネット店、同書店和歌山店、宇治書店で販売。

(ニュース和歌山/2018年2月24日更新)