放送大学は残るも和大は撤収

 和歌山大学は3月、和歌山市西高松の松下会館にあった地域連携・生涯学習部門を栄谷の本学へ移転させた。放送大学和歌山学習センターは残るものの、和大の職員は不在になり、定期的な学習会や貸し館事業は終了。文部科学省からの交付金減少による財政難が背景にあり、卒業生や同館で研修を受けた関係者からは「生涯学習の拠点が消えた」と惜しむ声が上がる。石塚亙(わたる)副学長は「まちなかで市民向け講座を開き、地域とのつながりは保ちたい」と説明する。

 故・松下幸之助の寄付で1961年に建てられた松下会館。87年に和大が栄谷に移転して以降、空き館だった建物を、和大生涯学習教育研究センター(現在の地域連携・生涯学習部門)として再出発したのが98年だった。センターは、ニュース和歌山と土曜講座を17年間共催。延べ1万9000人が受講したほか、市民団体の会議や勉強会、大学が主催する研修などに活用してきた。

 築60年近く経過した同館は改修が必要だが、大学の懐事情は厳しい。2004年に全国の国立大学が法人化されて以降、文科省からの運営交付金が毎年約1%削られ、和大は10年前に比べて年間約2億円減った。今回、改修費のめどが立たず、職員を引き上げることになった。

 3月25日に「松下会館さよなら会」が同館で開かれ(写真)、約30人が駆けつけた。小学校教諭の辻本敦子さんは「学校の外で学ぶ社会教育を知り、地域との連携を意識するようになりました。教える側から学ぶ側の視点を教わった場所です」。市民向け講座を毎年開いてきた女性は「生涯学習は、決まった時間、決まった場所の確保が大切。場所が失われることは大きい」と肩を落とす。

 建物の今後は「まだ白紙状態」(石塚副学長)。20年前の同館再出発に携わった和大前学長で国立大学協会専務理事の山本健慈さんは「財政が厳しい大学が生き残るには地域の支えが必要。市民と共に学びをつくってきた拠点が、市民と議論なく閉ざされるのは、大学の未来につながるのだろうか」と疑問を投げかけている。

(ニュース和歌山/2018年4月11日更新)