執筆者・大上さんと本紙記者入山

 県内の滝の魅力や伝承を紹介する本紙土曜号連載「わかやま滝物語」。今回は特別版として、高さ日本一の名瀑、那智の滝上流部に広がる原生林を、執筆者の大上敬史さん(写真)と訪ねた。2~5月に那智勝浦町観光協会が行うウォークでしか入ることが許されない場所で、「二の滝」「三の滝」があり、熊野那智大社の別宮、飛瀧(ひろう)神社のご神体として古くから信仰を集める那智の滝(別名「一の滝」)と合わせ、「那智の大滝」と呼ばれる。神秘の滝の全ぼうをとらえるべく、新緑映える神域へ踏み入った。 (林祐司、5月11日取材)

 

手つかずの自然

 神武天皇東征の神話に記され、神道、仏教、修験道の聖地とされてきた那智山。山内に60以上の滝があり、このうち4つの谷に那智の大滝を含む「那智四十八滝」と呼ばれる行場が点在する。

 この日は熊野・那智ガイドの会副会長の汐崎眞次さんが案内してくれた。那智大社の社務所前で待ち合わせ、早速お祓いを受ける。汐崎さんは「滝は神様そのもの。その上に土足で入るわけですから、必ず正式参拝の祈祷を受けます」と解説。厳かな雰囲気に身も心も引き締まる。

 原生林の入口は那智の滝とほぼ同じ標高の青岸渡寺近くにある。峠を目指し足を進めると、熊野灘への眺望が開け、その絶景に清々しさを覚えた。静かにそびえる杉木立の中、遠くに響く滝音を聞きながら黙々と歩く。南方熊楠も入ったという原生林。人の手がほとんど入っていないだけあって、千年杉と呼ばれる幹周り7、8㍍の巨木や、こけがむした岩や倒木がそこかしこにある。

 半時間ほど歩くと沢にたどり着いた。「ここからは川の中を進みます」と汐崎さんが麻ひもを貸してくれた。なるほど、これを靴に巻きつければ、川底を踏んでも滑らない。急な坂を上り下りし、少し汗ばんできたところ、川の冷たい水が心地よい。水量が多い時は渡れずに引き返すこともあるという。

写真=優しい印象の二の滝

 

険しい道越えて

 沢をさかのぼること半時間、大岩を乗り越えた先に二の滝が姿を現した。岩肌と山の斜面に囲まれ、花山法王が千日行をしたと伝わる滝は落差23㍍。扇型の滝つぼは水が緑色に輝き、しぶきの風から水の勢いを感じる。「勇壮な那智の滝に対し、二の滝は女性的で優しい印象」と大上さん。滝の形が木の葉の形と重なるため、木の葉流しの滝とも呼ばれる。

 ここから三の滝に続く道は険しい。屏風のように切り立った断崖が迫る道を、岩や木の根に張り付きながら進む。こけやシダが生い茂り、岩にとぐろを巻くように根をはった大杉もあり、生命の神秘性が感じられた。

 15分で三の滝に。落差15㍍と二の滝より小さいが、水の流れに勢いがあり、力強い。大上さんは「別名、馬頭の滝。目尻をつり上げ、真っ赤な顔で怒る馬頭観音のように、ごうごうと落ちる滝音が怒りに震えている」とシャッターを切った。

 来た道を戻り、最後に那智の滝を見上げる。133㍍の高さから一気に大量の水が落ちる様は壮麗で、しばし時を忘れ見とれてしまった。汐崎さんは「命の源である水が天から落ちてくるように見え、古くから人を引きつけてきたのでしょう」。

 滝、巨木、こけがむした大岩…。いずれも長い年月をかけ自然が生み出したものばかり。原生林に立つと、その息づかいが感じられた。「こうした自然を守り、謙虚に向き合ってきた人と自然の歴史と文化を、読者に届けよう」と大上さんと決意を新たにした。

写真=激しく水が落ちる三の滝と眺める林記者

(ニュース和歌山/2018年5月26日更新)

大上敬史さん作製「和歌山県の滝」で、県内の滝が紹介されています。