火から建物を守る水の神として鯱(しゃち)が、天守や櫓の屋根に据えられています。口を開けた「阿(あ)」の雄と口を閉じた「吽(うん)」の雌が、阿吽の呼吸で建物を守っています。
時代が下るにつれ雄雌は、鰭(ひれ)の数など微妙な違いで表現するようになり、見分けが難しくなっていきます。また、鯱の鱗(うろこ)の造りも簡略化されていく傾向がみられますが、その姿は様々で、意識をして眺めると実におもしろいものです。
和歌山城の鯱もそのひとつで、頭に帽子をかぶったような形は、他城に見られない大変珍しいものです。おそらく龍の姿を表現したものと思われます。
小天守玄関屋根の勾配の棟隅に、桃の形をした「留蓋(とめぶた)」がみられます。これは昭和33(1958)年の天守再建時のものですが、本物は「天守玄関桃瓦」と表して天守閣内に展示されています。古来より「災い除け」として『古事記』などの譯(はなし)にも登場する桃は、鯱と共に天守などの建物を守っています。
天守には、威厳と格式を重んじた飾りもあります。和歌山城天守や櫓には、最上階の外壁に窓を挟んで2本の長押(なげし)があります。これを二引両(にひきりょう、ふたつひきりょう)と言います。しかし、大小天守のものと櫓のものとは区別されています。櫓は黒い線を引いた長押ですが、大小天守の長押は、白いままで釘隠(くぎかくし)で飾られています。これは格式高い建物で他との違いを示しているのですが、徳川家の城であることを強調するものと言われています。
もうひとつ格式を重んじるものに、天守最上階の高欄があります。和歌山城の場合は、四方をめぐる廻縁(まわりえん)ですが、これは各お城によって違います。半縁もあれば、外に出られない飾り高欄まであります。元は寺社の楼門や本堂・本殿に付設されたもので、それを天守に取り付けることで格式高い建物としたのです。しかし、この高欄付き天守も構造の変遷とともにやがて天守から消えていきます。
写真=上=頭に帽子をかぶったような和歌山城の鯱/下=災い除けの桃瓦
(ニュース和歌山/2018年9月1日更新)