見出しにある「鸛」という漢字、〝コウノトリ〟と読みます。いくつかの漢和辞典で調べると、この漢字の左側〝雚〟の部分はクヮクヮと鳴く鳥の意味だとか。しかし、コウノトリはふ化から約70日、巣立つころには声帯が退化し、鳴けなくなります。代わりに長くて硬いくちばしをカスタネットのように打って、カタカタカタと音を出します。

 この漢字も、成鳥になると鳴けないことも、先月、初めて訪れた豊岡市にあるコウノトリの郷公園で教わりました。園内で飼育しているものに加え、午後3時前になると、周辺の木の上に、自然の中で暮らすコウノトリが続々と集まってきます。えさを積んだトラックがやって来る時間を知っているんです。翼を広げると2㍍以上。すぐ手の届きそうなところをダイナミックに飛ぶ姿は感動的でした。

 この施設で初代研究部長を務めた故・池田啓さんの著書『コウノトリがおしえてくれた』(フレーベル館)に、信じられない写真が載っています。1960年に豊岡市で撮影されたものですが、川の浅瀬で女性、その女性が連れた但馬牛、そしてすぐ側に12羽のコウノトリが一緒に写っています。コウノトリは全く警戒していないのか、女性と牛に背を向けています。共生する風景は日常的に見られたんだと想像します。

 国内で野生のコウノトリは71年に絶滅しました。その後、豊岡市では復活へ、農薬や化学肥料に頼らない米作りを進め、えさとなるドジョウやフナなどが通る魚道を造り、巣作り用の松を植えて…等々、様々な取り組みを重ねてきました。当然、労力は掛かります。しかし、コウノトリにとって幸せな環境は、人間にも安全で安心できる環境だとの信念で続けています。

 動物が警鐘を鳴らすケースはしばしばあります。最近では、ウミガメの鼻にささったストローを抜く痛々しい映像が衝撃的でしたが、海洋保全を目的に脱プラスチック製ストローの動きが見られます。動物たちの声に耳を傾け、解決方法を考え、実行する。その積み重ねのみです。

 西洋で赤ちゃんを運んでくると言われるコウノトリも、私たちの未来のために何が必要か、課題をくれています。絶滅したのは私たち人間が原因です。かつて日本中にいたコウノトリたちが、うれしさを表すためにくちばしを打ち鳴らす。そんな日を、私たちの手で取り戻さなくてはなりません。 (西山)

(ニュース和歌山/2018年9月22日更新)