本町三丁目の電車停留所近くにあった冨士屋旅館です。明治四十四(一九一一)年八月、大阪朝日新聞社主催の関西講演で和歌山市を訪れた夏目漱石は、和歌山県会議事堂での講演を終え、慰労会のあと宿所であった和歌の浦の望海楼に戻ろうとしますが、大荒れの天候で電車が不通になったため、冨士屋旅館に投宿しました。

 当時の和歌山市内では指折りの旅館でしたが、小説『行人』に描くところによれば余り良い印象はなかったようです。

 (古書肆紀国堂=和歌山市築港1─11、073・499・8039=店主の溝端佳則さんのコレクションを紹介します)

(ニュース和歌山/2018年9月29日更新)