「黄色いキャンディは何味?」「レモン!」「バナナ!」──。12月8日、和歌山紙芝居研究会が開いた「紙芝居をたっぷりと楽しむ会」の一コマです。みんなで手拍子を合わせ、演者の問いかけに答えてと、参加型の紙芝居は、作品の内容にとどまらない面白さがありました。
紙芝居は1930年ごろ、東京の下町で誕生したといわれます。関東大震災、世界恐慌の影響で多くの失業者が日銭稼ぎをしようと街頭で始めました。菓子を買った子に見せる大衆娯楽として、子どもたちに根付いた日本独自の文化です。
魅力は何と言っても人とのかかわりが生まれる点です。演者は、ヒントを出すように少しずつ絵を引き出したり、手遊びを挟んでみたり。同じ作品でも演者の個性で表現が変わり、演者、聞き手が同じ画面を通じて一つになれます。映像では味わえない絵から広がる想像の世界を楽しむことができ、居合わせた人の心に深く残ります。
この紙芝居の高い教育効果に目をつけたのが戦前の日本政府です。戦争が始まると国策で紙芝居が作られ、『軍神の母』『玉砕軍神部隊』といった軍事色の強い作品が多く出されました。紙芝居が軍国主義の宣伝と浸透に悪用されたのです。
戦後は「生きる意味とすばらしさ」がこめられた出版紙芝居が作られました。2001年には和歌山市出身の絵本作家、まついのりこさん(故人)らが紙芝居文化の会を立ち上げ、紙芝居の研究と普及を図る活動を始めました。海外での浸透も図り、言葉や文化の違いを乗り越えて今や世界50ヵ国の学校や福祉施設で活用されています。今年、12月7日を「世界KAMISHIBAIの日」とし、記念日に合わせた「楽しむ会」を各地で開きました。
紙芝居について考えた時、広島で被ばく経験のある和歌山市の児童文学作家、山本真理子さんの言葉を思い出しました。「戦時中は命を惜しまないことが美徳とされた。戦後、自由になったが、子どもの自殺が増えた。私たち大人が子どもに与えた環境には、子どもの生命力をなえさせるものがあったのか」
紙芝居が生み出す「共感の輪」は、人と人を結び、居場所を提供します。これは、生きづらさを感じる人の心を救い、平和な世界を築く土台となります。子どもたちを取り巻く環境の一つとして、紙芝居を守り伝えていくことは重要なのです。 (林)
(ニュース和歌山/2018年12月22日更新)