まちなかで新しい出来事や人に出会える拠点を自分たちの手でつくり上げ、まちへの愛着を育むプロジェクト「北町トッテ」が進み始めた。和歌山市北町にある元建具屋の倉庫を、イベント活動と並行し、補修していく試み。企画を進める小泉博史さん(37、写真)は「築60年で改装中の倉庫だから、何にでも使える。参加者とDIYで完成させ、まちの魅力を知るための〝取っ手〟にしたい」と望んでいる。
小泉博史さん企画 北町トッテ 木造倉庫 補修重ね再生中
同市万町で、異なる職業の人が事務所を共有して使うコワーキングスペースを運営する小泉さん。昨年春、東京に住む倉庫の所有者、小畑晴治さん(71)から、「地域のために使ってほしい」と相談を受けた。
9月に借り受け、片付けを開始。45平方㍍、木造の建物は壁や柱の腐食が激しく、建築士に指導を受けながら、地域住民や、県内のDIYが好きな15人と3日間かけて修理した。小泉さんは「せっかくなので工事を公開し、手伝ってもらおうと思い立ち、参加体験型イベントを試みました。実際に手を使って作業することが、この建物を通じ、まちへの愛着につながるはず」と期待する。
使えるようになった建物を会場に1月12日、倉庫に残る木材でベンチを作るワークショップを開催。参加者は木材加工や脚部に使う鉄材の溶接体験をした。また、当日来場したキッチン付きの軽トラックを、建物に入れるために壁に穴を開けた。その穴には後日、倉庫にあったガラス入りの木製扉をはめた。参加した田端政俊さん(39)は「自分たちがかかわった経験や思い出と一緒に建物が変化していく取り組みが面白い。トッテはまちと人が成長していく交流点になる」と話す。
2月3日には和歌山大学地域協働自主演習ゼミの学生7人が節分イベントに活用した。倉庫にあった畳を床に敷き、板と箱を組み合わせて手作りした長いこたつの上で、5㍍の恵方巻きを18人で完成させた。2年の桐生眞太郎さんは「ある物を使わせてもらい、ここにしかない自由な使い方に挑戦できた。小泉さんから、まちづくりの原点は〝自分たちが楽しむ〟ことだと学びました」。
指導する観光学部の永瀬節治准教授(38)は「トッテはリアルタイムで進行している建物。色んな人に多様な使われ方をして、まちでの実体験を育める。これから、中心市街地に増える学生とまちの接点として活用できるのでは」とみる。
今後は月1回のペースで補修イベントを予定。会議室やDIYガレージ、イベントスペースなどを併設し、隣接する劇場ゲキノバと合わせ体験型複合施設を目指す。
小泉さんは「近い将来、インターネット上でのコミュニケーションが一層進み、地域という概念が希薄になっていくように思う。反面、人々は手触りのある体験を求め、それを実際に行う場所が必要になってくる。トッテはそれをつくる一歩です」と力を込める。
詳細は「北町トッテ」HP。
(ニュース和歌山/2019年2月9日更新)