北を向くお地蔵さんを探してみよう──。紀の川市役所の若手職員5人が3月、「粉河お地蔵さん探索マップ」を作成した。多くのお地蔵さんが密集し、全国でも珍しい北向きのお地蔵さんがある粉河の特色を生かし、門前町の魅力に触れてもらおうと企画。リーダーの森緑さん(29)は「大通りは知っていても、生活道路を通る機会は少ない。地域の人たちに大切に祀られているお地蔵さんを巡り、粉河の町の良さを感じてほしい」と望んでいる。
門前町・粉河巡るマップ〜紀の川市若手職員が作成
マップは2018年度採用職員研修の一環で作成。観光をテーマに19人がフルーツや歴史など4グループに分かれ、マップやPR映像作りに取り組んだ。森さんたちは当初、粉河駅周辺のサイクリングマップを考えていたが、地元の人に「お地蔵さんが多く、珍しい北向きのものもある」と聞き、調べることにした。
昨年9月から半年間、手分けして町のお地蔵さんを訪ね歩いた。粉河の郷土史に詳しい増田博さん(84)に、江戸時代の地図に記録された分布を見せてもらい、現在の地図と比較。移動し、なくなっているお地蔵さんを確認し、道端の片隅にあるものや立派なほこらに祀られているものを記録した。メンバーの冨上侑揮さん(29)は「座っていたり、立っていたりと姿は様々。身代わり、延命、子授けや安産など意味も違って興味深い」と魅力を語る。
門前町とその周辺で20体を確認。このうち、2体が北を向いていた。増田さんは「粉河は昔から寺社が多く、その名残でお地蔵さんがたくさんある。天皇や位の高い人が南を向く『天子南面』という思想が昔からあり、北を向くのは庶民と同じ下座にいることを示します。粉河のお地蔵さんは庶民に寄り添っているのかも知れません」。和歌山県立博物館学芸員で仏像など日本美術史を研究する大河内智之さん(44)は「『北まくらは不吉』など民間信仰に近いお地蔵さんが北を向くのはあまり聞かないが、置く場所の制約でゼロとも言い切れない。京都にある北向き不動は都を守るためで、粉河のお地蔵さんも、個別に調べると北を向いている意味や地域の信仰の歴史が見える可能性がある」と語る。
マップには安全に巡れる14体を示し、お地蔵さんの種類や姿、それぞれの特徴をまとめた。宝珠や錫杖(しゃくじょう)といった身につけている道具の意味も紹介した。大人と子ども用の2種類作り、子ども用は簡単な言葉遣いで、間違い探しを載せた。
森さんは「親子で巡ってもらい、自分たちの地域のお地蔵さんも調べてみてほしい。研修で、お地蔵さんという地域に根付いた文化財が、住民の協力で管理されていることを知りました。行政だけでは手が回らない部分で、住民の協力が欠かせないことを実感しました」と話す。研修を指導した片山吉史さん(41)は「粉河出身の職員でも知らなかったと聞きます。地元の人にとって当たり前になっていた地域の魅力を取り上げられた経験は貴重で、今後の仕事に生かしてほしい」とエールを贈る。
マップは粉河駅、同市西大井の市役所、貴志川線貴志駅前の観光拠点で配布している。
写真=北向くお地蔵さんの前で森さん(右)と冨上さん
(ニュース和歌山/2019年4月13日更新)