風光明媚な和歌浦湾を一望できる元高級料亭旅館「石泉閣」を改装し、4月にオープンした和歌山市新和歌浦の「わかうら食堂」。地元産の魚や野菜を中心に扱い、和食、洋食と幅広く取りそろえる。料理長の小野原茂雄さん(47)は「食材、風景と他府県の人に自慢できるものが和歌山にある。地元の良さに気づいてもらえる場にしたい」とほほえむ。

歴史感じる建物

──歴史ある建物、重厚感があります。

 「築89年の建物で、約20年間閉まっていました。和歌浦の玄関口に位置し、大工さんの力を借りて自分たちで改装しました。当時の職人さんが持つ最高の技術を駆使した造りで、人の背丈より高い石灯ろうや紀州青石が露出した廊下など、できるだけ当時のたたずまいを残すようにしました。ただし、気軽に入れる場所にしたかったので『食堂』に。『昔は高級で入れなくて、中を見てみたかった』というお客さんも来てくれます」

──窓からオーシャンビューが楽しめます。

 「紀三井寺から片男波、マリーナシティ、下津まで見渡せます。朝は清々しく、昼は緑がかった海の碧が映え、夕方は夕陽で輝く海面が美しい。朝8時半から深夜0時まで、刻々と表情を変える風景に癒やされながら食事を楽しめます。マリーナシティの花火が正面に見え、花火の時間は店内の照明を落とします。海に向かって並べたペアシートでゆったり過ごしてください」

和歌山の食べ方

──灰干しサンマにシラスと〝地元の味〟がメニューに並びます。

 「モーニングはひじきとマカロニのサラダ、ごろごろ野菜とベーコン温玉など副菜が豊富。地元の主婦たちが朝から集まり、話に花を咲かせています。ランチで人気は灰干しサンマ定食。地元の伝統製法で作られる名産で、脂と香りのバランスが絶妙です。天丼も有頭エビが丸々一匹乗って迫力満点。ディナーのオススメは、穴子の1本あげネギ醤油。穴子の天ぷらは、だしに付けて食べるのが一般的ですが、ネギと生姜を添えてちょっと醤油を付ける和歌山独自の食べ方があります。湯浅醤油の深い味わいが、穴子の甘みを強調します。また、テーブルに専用卓上グリルを置いて焼きたてを食べられる焼き焼きグリルは、アジ、サバ、サワラといった地元の干物を味わえます」

──洋食も豊富です。

 「ハンバーグやチキン南蛮など定番料理は子どもに人気で、和食を好む親や祖父母と一緒に3世代で来てもらえます。和洋ミックスしたものも創作していて、イカの塩辛とクリームチーズ、熊野牛とフォアグラのすき焼きなど、和食と洋食の垣根を越えた面白い食べ物、おいしい食べ物を追究しています」

心に残る料理

──料理人の道を選んだのは。

 「佐賀出身で中学卒業後、手に職を持とうと関西へ。料理の心得はありませんでしたが、ホテルの厨房で働くことになりました。皿洗いや配膳をこなしつつ、急に調理の仕事を振られた時がチャンス。普段から自分の仕事をしながら、料理人の動きを見て自分のものにできているか試されるんです。きちんとできるとまた調理させてもらえます。それを積み重ね、ホテルや日本料理店の料理長を任されるようになりました」

──思い出深い経験は。

 「20歳で初めて焼いた鮎の塩焼きをお客さんに出した時ですね。盛りつけも含め、お客さんが喜ぶ姿を見てやりがいを感じました。料理は食べると消えてしまいますが、食べた人の心や記憶にずっと残る料理を出していこうと決めました」

──今後は。

 「様々な料理を試しますが、結局一番おいしいのはシンプルな料理。昔の料理人の知恵を借りつつ創作を続けます。ここは景色が良く、県外からのお客さんも多い。和歌山の魅力を舌と目で味わってもらえるよう、季節ごとに旬の和歌山の食材を使ったメニューを届けてゆきたい」

 

【わかうら食堂】
和歌山市新和歌浦4-16
午前8時半〜深夜0時 無休
073-498-8311
 ※和歌浦漁港に提携駐車場

(ニュース和歌山/2019年7月10日更新)