昨年11月、202年の歴史に幕を下ろした海南市黒江の「黒江ぬりもの館」が、市民有志の 手で新たなまちづくりの拠点に生まれ変わる。これまでは特産品の漆器販売が中心だったが、今後は市民が運営し、カフェや貸しギャラリー、手作り工芸品の販売も行う。交流の場として活用することで、黒江の町並み保存の核にしてゆきたい考えだ。関係者は「みんなの知恵で乗り切り、新しい黒江のまちづくりにつなげたい」と意気込んでいる。 (2009年1月17日号より)

 百年以上前に建てられた日本の伝統家屋、古民家を地域の資源と見直し、新たな価値を付けて活用する動きがこの年に和歌山で活発だった。09年の本紙では黒江ぬりもの館の復活をはじめ、湯浅町で明治期の醤油醸造所を改修したおもちゃ博物館のオープン(2月14日号)、和歌浦で築百年近くの古民家を拠点にまちかど博物館の開催(同28日号)、4月11日号では岩出市で昔の農家を改装したカフェ兼ギャラリー、アートスペース紀の川の誕生を伝えている。

市民有志で復活

市民有志が集まり、手作りで改修した黒江ぬりもの館

 黒江ぬりもの館は本来、江戸時代後期に建てられた漆器を包む紙箱屋の家屋で、1988年から2008年まで地元4業者が漆器の直売店として活用していた。根来塗体験教室も開き、90年頃には年間2万人の観光客でにぎわったが、漆器産業の低迷で06、07年には年間6000人に減少。4業者中2業者が廃業や倒産に追い込まれ、一度は売り場を閉じた。運営業者の一人、池原庸夫さん(69)が「空き家にせず、何かの形で残したい」と呼びかけたところ、地元の主婦や建築士ら20人が集まった。
 市民有志は自らの手で床と壁を張り替え、漆の製造に使ったくろめ桶をテーブル代わりにするなど改修。09年2月、カフェと貸しギャラリーの機能を持つ新たな場に生まれ変わった。09年から3年間、同館代表を務めた角野牧子さん(59)は「引き継いだからには何とか残していきたいと必死だった。再生をきっかけに地元の人たちが古いものの価値に気づき始め、街並み保存への気運が高まった」と振り返る。
 復活から5年半。定期的に落語会やのみの市を開き、カフェには海外からの観光客が訪れることもある。10年には黒江ならではの景観を守っていこうと住民有志の運営協議会が発足した。ぬりもの館を拠点に、黒江のまちづくりが加速した。

次世代へ引き継ぐ

 築150年の農家を活用したアートスペース紀の川(写真上)も09年によみがえった古民家だ。オーナーの中川妙子さん(70)が義父母の暮らしていた家を2年掛かりで改装し、ギャラリー併設のカフェにした。有吉佐和子原作の映画『紀ノ川』(1966年公開)のロケに使われた建物で、黒塗りの壁に太い柱や梁(はり)が150年の趣を伝える。
 「一時は解体を考えたがあの時に残してよかった。新築にない古民家ならではの落ち着いた雰囲気が『遠い田舎の実家に戻ったみたい』と喜ばれる」と中川さん。改装後は県内の芸術家が作品展を開いたり、根来寺を訪れる観光客や地元の人の憩いの場になっている。
 角野さんは「古い建物を生かすことで自分たちの街を誇りに思い、郷土愛が育ってきた」と話す。古民家に新たな息吹が宿り、かけがえない地域の宝へと生まれ変わった。

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ニュース和歌山2014年11月15日号掲載