シェフやパティシエら、和歌山で食の魅力を追究する料理人に迫る新連載「味力(みりょく)びと」。第1回はアバローム紀の国で約40人の料理人を率いる総料理長の佐藤喜久一郎さん(52)です。「食を通じて健康に」と2009年からホテルをあげて取り組む減塩メニューについて聞きました。(文中敬称略)
――減塩メニューについて教えてください。
佐藤 高血圧や糖尿病などの生活習慣病が気になる方にも安心して食べてもらおうと、県立医科大学の有田幹雄教授と連携し、塩分やカロリーに配慮したメニューを作り、ホテルの3レストランと宴会で味わってもらっています。料理人だけでなく、ホールスタッフや営業を交えてプロジェクトチームを組み、毎年秋に内容をリニューアルします。今はまさに新メニュー開発の真っ最中。
――お客さんの反応は。
佐藤 「おいしくなさそう」「味が薄いのでは」という減塩料理のイメージを覆し、「思っていた味と違う!」と驚かれます。毎年新メニューを待ってくれる健康指向のリピーターができました。
――和牛サーロインの鉄板焼きや伊勢エビと帆立の橙ジュレ掛けなど豪華です。
佐藤 例えば一般的な懐石は1500〜2000キロカロリーですが、減塩メニューの場合はこれを約800キロカロリー、塩分は2グラム程度に抑えます。2グラムなんてほんの少し。肉の選ぶ部位や下味のつけ方を変えたり、フルーツ酢やカレー粉を使う、香草野菜を薬味にする、レモンをつけて魚を焼く、造りのしょう油をダシで割るなど知恵を絞ります。
――開発の難しさは。
佐藤 味や彩りにこだわる料理人と、数値を基にする栄養士では考え方が違うので、ギャップに初めは苦労しました。栄養学のセミナーを受けたり、減塩食推進の先進地、広島の呉市へ視察に行き、試作を繰り返します。
――あらためて、料理人を志した理由は。
佐藤 やはり食べることが好き、作るのも好き。上富田町出身で、高校卒業後、白浜の旅館や大阪の割烹料理店で経験を積み、アバロームでは前身の紀の国会館も含めて30年近くになります。和食が専門で、主に宴会料理を手がけ、1日2000人分近く用意することも。食べ残しがなく、「おいしかった」と聞いたときが一番うれしいです。
――ちなみに、どんな料理が好きですか。
佐藤 凝ったものより、旬を生かした素朴な味かな。魚だと塩焼きとかね。和歌山は海、山、川がある恵まれた土地で、四季折々のよさがあります。
――これから目指すところは。
佐藤 一人でも多くの人に訪れてもらうことですね。また、呉市では市を上げて減塩低カロリー食の提供を進めており、各飲食店が取り組んでいます。和歌山でも、もっと広まり、健康や病気のために外食を控える人にも食事を楽しんでもらいたいです。
データ
アバローム紀の国…和歌山市湊通丁北2—1—2。電話(073・436・1200)。
(ニュース和歌山2014年5月28日号掲載)