古に 妹と我が見し ぬばたまの 黒牛潟を 見ればさぶしも 柿本人麻呂
木陰に入ると秋風が心地よい季節になりました。夏の日差しを楽しむかのように咲き誇っていたヒオウギの花は終わり、今は大きくふくらんだ実がさわやかな風に揺れています。もしまだ残り花が咲いていたら観察してください。
花びらは6枚で、斑点があります。花茎は細くよく枝分かれしています。ヒオウギとは昔の高貴な人々が手にしていた「檜扇」のことです。葉が左右交互に重なり合って、あたかもそのように見えることから名付けられました。もうすぐ実の中から真っ黒な種子が顔を出します。その種子がぬばたまと呼ばれ、夜、黒、闇などの言葉を連想させることから、それらにかかる枕詞(まくらことば)になりました。
『万葉集』にはぬばたまが出てくる歌がたくさんありますが、ヒオウギ自体を歌ったものではなく、枕詞として使われています。
『万葉集』には柿本人麻呂が詠んだ、和歌山県にちなんだ歌があります。
「古に 妹と我が見し ぬばたまの 黒牛潟を 見ればさぶしも」
昔、妻と2人で眺めた黒牛潟を、今1人で見ると寂しいものだなあというような意味でしょうか。黒牛潟は今の海南市の入り江と言われています。(和歌山県立紀伊風土記の丘非常勤職員、松下太)
写真上=残り花と膨らんだ実、同下=扇のように重なり合う葉
(ニュース和歌山/2019年9月11日更新)