漆器の街、海南市黒江に残る築107年の古民家を活用し、4月にオープンしたのが、「べっちんさん」です。レトロな雰囲気の店内で早なれ寿司を中心に、コーヒーやスイーツも楽しめる新スポット。調理スタッフの川端秀子さん(79)と石津万喜さん(39)に話を聞きました。(文中敬称略)

 

老舗から継承

──「〝べっちんさん〟、ユニークな店名ですね。

川端「べっちんとは木綿で織った布、別珍のこと。オーナーの中山一が57年に渡り、別珍を製造・販売する会社、ナカヤマを大阪で経営していることから、この名前になりました。早なれ寿司をメーンにし、カフェと漆器販売を行っています」

──早なれとカフェの組み合わせも面白いです。

石津「川端さんが2年前まで、船尾市場の近くで早なれ寿司の老舗、山忠をされていて、海南市出身だったオーナーがファンだったんです。その味を残したいと川端さんに相談し、このべっちんさんで味を守っていくことになりました」

川端「山忠は昭和23年創業で、ありがたいことに県外からも買いに来てくださる方がいらっしゃいました。その味をこのような形でつなぐことができて感謝しています」

 

絶妙の握り加減

──70年以上続く味、そのこだわりは。

川端「サバの骨を抜いて皮を取った後にさばいて塩抜き。その後、酢に漬けて、握った酢飯の上にそのサバをのせ、アセの葉をまき、桶に入れます。米は新潟産コシヒカリ、サバは国内産、酢は酸味の強い厳選したものを使い、1つひとつ丁寧に手作りしていますが、特別なことはしていないかと思います」

石津「川端さんはそう言われますが、長年磨いた技は本当にすごい。酢飯を握ってアセを巻く、その力加減一つとっても本当に難しい。力を入れすぎるとごはんが硬くなりますし、力が足りないとバラバラになる。私は川端さんの握る手元を動画で撮らせてもらい、それを家で何度も見て勉強しました。山忠さん時代からのファンの方に『味が変わってない』とおほめいただいたり、山忠の味をうちが継いでいると知らずに来られた方から『これって山忠さんの寿司じゃない?』と聞かれたり。私にとってはそんな言葉が、しっかり味を受け継げている何よりの証拠だと喜んでいます」

 

黒江に行ったら

──話を聞いているだけでおなかが鳴りますね。

川端「早なれ寿司と、和だしに黄そばを入れた小そばのセットはよく注文いただきます。早なれ寿司はお持ち帰りも歓迎です。好みのなれ加減がありましたら、予約いただければご用意します」

石津「1日限定5食の茶がゆセットも人気です。ほうじ茶で炊いたおかいさんに金山寺味噌、かまぼこといった地元産の物のほか、焼き鮭、漬け物など10種類ほど付いており、朝から食べに来られる方もいます。客席から見える庭もきれいで、カフェとしてのんびり過ごされる方も多いです」

──今後は。

川端「私自身は昔からの味を受け継いでくれる若い人がいて、その味を楽しみにしてくれるお客さんがいらっしゃることが何よりうれしいことです。〝黒江に行ったらべっちんさんへ〟。そう言ってくださる方がもっと増えるよう頑張ります」

写真=人気の「早なれ寿司と小そばセット」(デザート付き1100円)

【べっちんさん】
海南市黒江659
073-488-3369
10時〜17時(LO16時30分)
水曜定休

(ニュース和歌山/2019年10月9日更新)