かつて和歌山市鳴神で人気を集めた焼き鳥屋「鳥由」。13年前に閉店したこの店の味を継承する「湧水」が7月に持ち帰り専門店として営業を始めました。切り盛りするのは先代、北川好美さん(81)の娘、由美さん(54)。甘辛いタレが人気のこの店には、親から子、子から孫へとつながる思いがありました。
息子の一言
──まずお母さんが焼き鳥店を開業されたそうですね。
「母が44歳で鳥由を始めたころ、私は18歳で遊び盛り。接客業は向いていないと思っていたし、店が忙しく渋々手伝っており、継ぎたいと思いませんでした。オープンして1年ほどで父が他界。それ以降は母1人で店に立っていました」
──当時は人気のお店だったと聞きます。
「あのころ、和歌山に今ほど焼き鳥店は多くなく、またお客さんとの会話を大事にしていた母とのおしゃべりを楽しみに、有名企業の社長や大病院の院長夫婦など、たくさんのお客さんが来てくれて、繁盛していました。でも母が難聴で、お客さんとの会話が難しくなり閉店しました」
──再開はなぜ?
「閉店してから、私が定食店やマージャン店などを続けましたが、焼き鳥店だけは避けていました。ただの反抗心なんですけどね。でも、何をやっても軌道に乗らず、どうすればいいか悩んでました。そんな時、トラック運転手をしている息子の『いつか大好きだったおばあちゃんの焼き鳥店を復活させたい』との思いを知りました。それなら、母の味を息子にしっかり継げるよう、私自身が焼き鳥店を再開させようと考えたんです」
母から受け継ぐ
──こだわりは?
「母が守り続けているタレです。砂糖としょう油のシンプルな味ですが、『甘辛い味が嫌いな日本人はいない』との母の自信と、日々、継ぎ足してできた風味が自慢です。持ち帰り用なので、冷めても味がしっかり感じられるよう、少し濃くしています」
──もう1つの主役、鶏肉は?
「紀州うめどりを使っています。皮は手羽の部分を使っていて、パリパリだけでなく、肉のジューシーさも同時に味わえます。鶏の皮が嫌いな人も試しに食べてもらうと、ほとんどの人が注文してくれますよ。定番のモモやつくねも人気です。炭は母のこだわりで紀州備長炭を使っています。他のものと比べ、焼いてる時に舞うすすがいい香りなんです。焼き鳥を食べてもらいたいとの思いが強いので、鶏以外は彩りでししとうを添える程度です」
──昔のお客さんも来られますか?
「みなさん『懐かしい、あの味のままやね』と言ってくれます。昔のお客さんに鳥由のころの雰囲気を思い出してもらえたらと、のれんは鳥由のものを使ってます」
──お母さんの味を受け継ぐプレッシャーは?
「特に感じてないですね。母が作り上げたタレの味に、私も絶対の自信があるので。この味をもっと広く知ってもらいたい思いの方が強いです」
──今後は?
「私が店に立つ間は、テイクアウト専門店として続けるつもりです。将来、息子にバトンタッチする時には本人がやりたい形でやってもらえたら。母の味を息子につなぐ橋渡しになるのは、やりがいがあります。午前中は母が手伝ってくれるので心強いです。お客さんにも3世代に渡って、鳥由の味を楽しんでもらえたらうれしいですね」
【やきとり 湧水】
和歌山市鳴神736─14
注文受付=午前9時〜午後7時
商品渡し=午後3時〜
不定休
☎073・473・6646
(ニュース和歌山/2019年11月13日更新)