春日野に 煙(けぶり)立つ見ゆ 娘子(おとめ)らし 春野のうはぎ 摘みて煮らしも 作者不詳

 ヨメナ(うはぎ)は野原や道端にごく普通に生えるキク科の植物です。花は夏の終わりから秋の終わりごろまで咲き続け、野山を彩ります。花は薄紫色で中央が黄色く、大きさは10円玉ほどです。

 キク科の花は1つではなく、たくさんの小さな花が集まったものです。ヨメナでは中の黄色い部分が花びらのない「筒状花」で、その周りを薄紫色の花びらのある「舌状花」が取り囲んでいます。ヒマワリの花をイメージすると分かりやすいですね。それと同じつくりです。

 秋の野山に咲くキクの仲間には黄色や白色の花が多いですが、その中にあってヨメナのような淡い色の花はよく目立ちます。ヨメナは今でこそ一部の愛好家が食べて楽しむ植物ですが、昔は天ぷらやあえ物にして食べられていました。

 万葉集にはこんな歌があります。

 「春日野に 煙立つ見ゆ 娘子らし 春野のうはぎ 摘みて煮らしも」

 奈良の春日野に煙が立つのが見える。娘さんたちが春の野のヨメナを摘んで、煮ているようだという意味でしょうか。この歌からも分かるように、摘むのは秋ではなく春の時期。柔らかい葉や茎を食料にしていたのでしょう。

 漢字で書くと「嫁菜」ですが、それに対して「婿菜」と呼ばれるシラヤマギクもピークは過ぎましたが、風土記の丘の万葉植物園で見られますので、探してみてください。白くて、ヨメナより一回り小さな花です。 (県立紀伊風土記の丘非常勤職員、松下太)

(ニュース和歌山/2019年11月13日更新)