11月末、新作『男はつらいよ50』の先行上映会がジストシネマで開かれ、800人が集まった。22年ぶりにスクリーンに帰ってきた寅さんに会場は大いに沸いた▼舞台あいさつには山田洋次監督と、和歌山市出身で照明監督を務めた土山正人さんが登場。土山さんは和工生時代、ぶらくり丁にあった築映でアルバイトをしていた。銀幕に魅了された青年は、周りが就職する中、映画で食べて行こうと決意し、松竹大船撮影所の門をたたいた▼筆者にとっても築映は特別な場所だった。親に連れられ見た寅さんが原体験となり、山田作品を研究するために大学で映画を専攻した。まさか和歌山で会えると思っていなかった監督を目の前に、ペン先が震えた▼築映はなくなり、商店街も様変わりしたが、心の中で大切にしているまちの記憶や物語は色あせない。「困ったことがあったら、風に向かって俺の名を呼べ」と軽妙な口調で語る寅さんに、もう一度笑い、泣き、励まされるだろう。一般公開は12月27日㊎から。 (井本)

(ニュース和歌山/2019年12月14日更新)