第二楽章 社会実験の幕開け
和歌山市駅周辺の商店街・自治会と私の研究室で結成した「市駅まちづくり実行会議」は、2014年11月にワークショップを開始した。
地域の課題と資源を共有し、まちの将来像を考えようという趣旨である。自治会にチラシ配布をお願いしたところ、予想以上の人が集まった。まちづくりに関心のある住民はいても、話し合う場がなかったのである。自主的な活動で予算もないが、市職員にも参加してもらい、無理のない頻度で続けることになった。
一つの成果は市駅前通り(和歌山市駅前線)から変えようとの考えが共有されたことである。戦災復興事業でできた幅員30㍍の市道は、クスノキの分離帯を挟んで上下2車線が走る。バスも通るが、車の通行量は減っている。ならば「駅前の顔となる、歩行者が主役の道にしよう」という発想である。しかし画餅では意味がない。可能性を実証する「社会実験」を試みてはどうかと提案し、賛同を得た。
肝心なのは中身である。研究室で学生たちと議論し、車道に芝生を敷くアイデアが出た。通行止めの路上イベントの例は市内にもあるが、「社会実験」と銘打つ以上、市駅前通りの新たな空間像を提示したい。いっそ公園のような装いにガラリと変えてみようと考えた。
車道が緑地になれば、クスノキ並木も生きる。こうして「市駅〝グリーングリーン〟 プロジェクト〜市駅前通りを緑と憩いの広場にする社会実験」が企画された。
とは言えハードルは高い。思いきって道路に天然芝を敷くことにしたが、予算も技術も乏しく試行錯誤が続き、地元住民も「草むらを作って人が来るんか?」と半信半疑。他都市には歩道を広げる社会実験の先例もあったが、県内では経験がなく、警察からは「大学の先生は実験と簡単に言いますけど、公道ですよ」と、なかなか話が通じない。迂回を迫られるバス会社も難色を示す。
それでも何とか意義を理解してもらい、多くの協力者を得て、2015年9月の2日間の実施にこぎつけた。
(ニュース和歌山/2020年1月18日更新)