有害鳥獣による被害を身近な問題にしてもらいたいと、和歌山県林業普及指導員の岸本勇樹さん(42)が対戦型の教育カードゲーム「人×鹿(ジンロク)」を考案した。林業関係者の研修や高校生向けの森林学習で試験的に取り入れられており、参加者の意識向上に一役買っている。「人と鹿の“仁義なき戦い”の中、生態系を崩さない範囲でバランス良く共生することが大切。ゲームをきっかけに、関心を持つ人が増えれば」と思いを込める。

林業普及指導員 岸本勇樹さん 獣害学ぶカードゲーム考案

 温暖化や山村集落の衰退で増えたイノシシやサルが農作物を食べる例が増え、県内の被害は9年連続で3億円を超える。近年は伐採後に植えた山林の苗木を鹿が根こそぎ食べる被害が深刻化。防護ネットや苗を筒で覆うなど対策を講じるが解決は難しく、関係者は鹿を駆除して適切に管理し、共生する方向を探る。

 鹿の被害について林業関係者以外に知ってもらうには説明だけでは難しいと感じた岸本さんは昨年、娘の好きなカードゲームを参考に、オリジナルゲームを作り上げた。なぜ鹿による被害が問題なのか、どんな対策をしているかを伝えると同時に、乱獲への警鐘も込めている。

 ゲームは人と鹿の陣取り合戦。30市町村を描いた県地図の盤と、鹿に見立てた木のコマ、1〜5の数字を書いたカードを使う。鹿10頭から始まり、互いに出した数字カードの差を鹿の数に反映し、盤を埋めていく。事前に適切な共生と考える頭数を設定し、終了時点で目標数に近ければ人の勝ち、大繁殖していれば鹿の勝ち、極端に減らしすぎると共生バランスが崩れたことになり、両者の負けになる。

 盛り上がるのは手の読み合い。数字カードに加え、5回に1度、対策と環境カードを投入する。人が対策カード「ハンター増員」「シカ対策室設置」で減少を図ると、すかさず鹿が環境カード「山村集落の衰退」「地球温暖化の進行」で応戦。社会や環境の変化など人間生活の様々な要因を盛り込んでおり、ひたすら子孫を増やす鹿に対し、あの手この手で策を練る人の姿が、現実のいたちごっこを反映している。プレーヤーが書き込める白紙カードもあり、終了後にどんな対策をすれば共生できるか話し合える工夫を凝らした。

 昨年10月、林業技術者の懇談会で初披露。また同月、わかやま森林と緑の公社が主催した市町村職員向け研修で取り入れた。同公社の大澤篤弘さん(44)は「終わった後、無人ドローンで駆除するといった奇抜な案が出た。管理の難しさや獣害の現状を身近に感じてもらえた」と話す。

 今年1月には県農林大学校の中谷崇人さん(25)が、熊野高校1年生への出前授業で実施。終了後、生徒から「田舎に住む人が増えれば生息地が減り、過疎化もなくなる」「鹿革がブームになれば被害額を取り返せる」との声が出た。中谷さんは「どんな対策をすれば良いか、生徒が考えることを重視した。積極的に話し合う姿が印象的」と振り返る。

 ゲームは改良途中。岸本さんは「獣害は一朝一夕に解決できるものではない。適正な頭数管理のあり方や、生態系に関心を持つ人が増えれば、新しいアイデアが出てくるはず。将来はイノシシやサルなど他の鳥獣害へ展開したい」と意気込んでいる。

 活用相談は岸本さん(jinroku2020@gmail.com)。

写真=ゲーム中、獣害と環境や社会の関連を説明する岸本さん

(ニュース和歌山/2020年4月11日更新)